ブゼンと聞けば思い出す

東京には馬にちなむ地名が少なくない。堀部安兵衛のあだ討ちで名高い高田馬場をはじめ、新馬場、駒込、馬喰町、小伝馬町など、街中に馬がいることが珍しくなかった江戸時代の情景が伝わってくる

しかし現代の東京で馬の姿を見かける機会はほとんどない。ふたつの競馬場を除けば馬事公苑といくつかある乗馬クラブ程度か。ごくたまにではあるが、新任の外国の特命全権大使が信任状を天皇陛下に捧呈する「信任状捧呈式」の際に馬車が使われる。

高田馬場」の始まりは、1636年、徳川家光により馬術鍛錬や流鏑馬などを目的として馬場が築造されたことに端を発する。その当時は馬がたくさんいたのかもしれないが、現代の高田馬場界隈を歩いても馬の姿を見ることはない。代わりにうどん屋を見つけたので入ってみることにした。

「大地のうどん」は福岡では有名な行列必至の人気店。関東唯一の支店がここ高田馬場にある。その名も「東京馬場店」。パッと見だと東京競馬場内にあるお店と勘違いしてしまいそうだ。「高田馬場店」としなかった理由は謎だが、肉ごぼ天うどんはそんな些細なことはお構いなしに美味い。

「肉ごぼ天」というと博多うどんや久留米うどんの印象だが、こちらのお店は「豊前うどん」に分類される。透明感のある麺は、モチモチと柔らかく喉のすべりも良い独特の食感。そしてこのゴボウ天のでかいこと。決して控え目な分量ではないのに、食感のコントラストを楽しんでいるうちに、あっと言う間に食べ終えてしまう。

豊前」という北九州地域の旧名を冠しているとはいえ、「豊前うどん」はその地域の伝統食でもなければ、町おこし的B級グルメでもない。むろん1999年の秋華賞ブゼンキャンドルとも、なんら関係はない。

北九州空港から小倉競馬場に向かう途中に店を構えるうどんの名店「津田屋官兵衛」で修業した弟子たちが、「豊前裏打会」なる会を結成。うどんの本場である讃岐を「表」に見立て、「たとえ“裏”の立場であっても、新しく個性あるうどんを発信していこう」という信念のもと、「豊前うどん」を名乗り、熱い魂を練り込んだうどんを提供している。そう思って食べると、なお美味い。大盛にして正解だった。

12番人気のブゼンキャンドルが勝った1999年の秋華賞で、私が本命に推したのは1番人気トゥザヴィクトリー。まさかの13着だった。しかし競馬は結果がすべて。日曜の京都10レース・橘ステークスに出走するスパークリシャールはトゥザヴィクトリーの曾孫にあたる。競馬に身を置くと歳月の流れがことさに早い。

 

***** 2024/5/2 *****