小倉のウナギ

昨日付けで夏はカレーだと書いたが、夏と言えばウナギでもある。

土用の丑の日の風習に代表されるようにウナギがスタミナ食と言われるのは、脂分とビタミンAをたっぷり含むからであろう。平賀源内より遥か前、奈良時代の当時からウナギは夏やせを防ぐ「薬食」として知られていたと記録に残る。

先週土曜の小倉がハネてから飛行機に乗るまでのわずかな時間を縫って小倉駅前の有名店「田舎庵」を訪れる機会を得た。昭和元年創業の老舗。その味を「日本一」と評する声も多い。

私の母の実家は目黒で鰻屋を営んでいたので、私は幼少の頃から日々三度の食事に鰻重を食べ続けて育った……なんてコトはあるはずないけど、母の実家が鰻屋なのはホントです。毎日とは言わないけど、鰻が珍しい献立ではなかったことも間違いない。自宅にはあの鰻のタレビンが売るほどあったし、中学時代に毎日食べた弁当(給食ではなかった)も、週に一度は必ずウナ弁という有様だった。弁当箱を開けて鰻だったりすると、「あぁ~、また鰻かよ~」と天井を仰いだ記憶がある。

関西に住むようになって驚いたのは鰻の違いである。関東は背開きにして蒸してから焼く。関西は腹側を裂いて、蒸さずに火にかざす。この違いを「武士の町、江戸では切腹を嫌ったため」とする説があるが、私は見栄えの問題だと聞いた。関西風の腹開きだと身の薄い腹肉が両端になり、焼いた際に丸まりやすい。逆に両端に厚みのある背開きの関東風は丸まりにくい。実質の関西に対し、見栄えを気にする江戸気質ということだ。ただ真偽のほどは明らかではない。

ではこの小倉「田舎庵」ではどうなのか?

腹開きの直焼きは関西と同じ。しかし関西の直焼きよりふっくらしているのはなぜか。さらに重箱の蓋を開けたときの香ばしさも際立つ。

その理由のひとつは串打ちにある。裂いたウナギに3本ほど金串を打ち、火床に載せてからさらに何本もの串を次々と刺す。熱で固まり始めたたんぱく質をこの「追い串」で和らげるのだという。

すると、鰻に焼き目がついたあたりで大胆にも冷水をかける。身の薄い部分が焦がさぬよう全体を均一に焼き上げるだけでなく、これによって蒸す効果がある。だからであろう。外側はパリッと心地よい食感がありながら、中身はふわっと柔らかい。

これらは「田舎庵」が独自に編み出した焼き方で、同じ小倉でも他店では類を見ない。数多ある鰻料理店の中でも「田舎庵が日本一」と称する食通が多いのも頷けよう。さすが食通を唸らせる街だけのことはある。

「ウナギノボリ」という牡馬がいる。ドレフォン産駒の5歳牡馬。そのユニークな馬名から察しがつく通り小田切有一オーナーの所有馬である。最近は苦戦続きではあるが、昨年の春に1勝クラス、2勝クラスを連勝したときには、たしかに鰻上りの勢いを感じた。

実はこのウナギノボリは2代目。先代はキングカメハメハ産駒の牡馬で、やはり小田切オーナーの所有馬だった。しかし、デビュー4戦目の新潟で競走中止予後不良の憂き目を見ている。同じ名前を託した2代目の新馬勝ちはオーナーにとっても格別の思いがあろう。美味しい鰻をいただいたからというわけではないが、ウナギノボリの次走は私も個人的に応援する。私の馬券も鰻上りになることを願いたい。

 

***** 2024/7/1 *****