12月に走るのは

JCが終わってからも暖かい陽気が続いたおかげで、12月に入っていることすら忘れていた。カレンダーが残り一枚になれば歳の瀬感もいや増す。いやあ、今年もあっと言う間でしたなぁ。先日は年末恒例の流行語大賞が発表。「初老ジャパン」は残念ながら大賞を逃したが、これほどまで馬術競技が話題になった年も無かろう。そういう意味では忘れ難い一年になった。

12月は旧暦で「師走」。あさっては師走ステークスも行われる。その語源はお坊さんが走り回るほど忙しいからだと思っている人が少なくないようだ。

しかし、実は「師走」の語源はよくわかっていない。確かにお坊さんがお経をあげるために走り回る月だからという説もあるが、それ以外にも四季の果てる月で「四果つ」の意味だとか、年の終わりで「トシハツル月」が略されたとかいう説がある。あるいは単に「せわしい」が転じて「せわし」とする説もあって、とにかくコレ!と確定的なものがないのである。

2012年 師走S ツクバコガネオー 吉田豊

今日は外国からの客を連れて川崎競馬場へ。非開催の競馬場にわざわざ足を運ぶのは、それが仕事だからである。仕事なら終われば打ち上げなければならない。それで川崎駅近くのおでん屋に駆け込んだ。冷え切った身体にアツアツのおでんと燗酒が嬉しい。

外国人から見ると、一年中酒を温めて日本の習慣は奇異に感じるらしい。私の妻は昔から燗酒が好きで、真夏に私がぐびぐびとビールを飲む隣で、ちびちびとお猪口をすすっていた。その時は「この暑いのに」と思ったりしたけれども、最近になってようやく私も燗酒の良さに気づいた。冷やして香りと喉越しを楽しむより、コメの旨味や甘味に重きをおくようになったのである。トシのせいかもしれないが、悪いことではない。

近年の日本酒ブームは「良い酒は冷やで飲むもの」という誤った認識を飲み手に植え付けてしまった感がある。実は私もその一人だった。だが「燗して飲むのは安酒」という認識は、あらぬ誤解である。

もともと日本酒という酒は、温度帯によって味わいが異なる。氷温に近いもの。10度以下の吟醸酒。室温で楽しむ純米酒。そして人肌温度から熱燗までと実に幅が広い。同じラベルでも、温度が違うだけでまるで違う酒に変化するのである。

基本的に生酒以外は燗ができると思って良い。大吟醸酒は香りが飛んでしまうので40度が限度だが、純米、本醸造など、様々な酒と温度の相性を自分で探して見るのも悪くなかろう。燗をつけることで、常温では見えなかった酒の個性が浮かび上がってくることもある。それに気付いた頃には、すっかり出来上がってしまっていることがほとんどだけれど。

千鳥足で店を出た。我々が「師」と言えばお坊さんではなく調教師。とはいえ、調教師の先生が忙しく走るのは年末よりもむしろ春から夏にかけてだから、競馬の12月に「師走」は似つかわしくない。そもそも競馬で走るのは師ではなく馬だ。昔は12月になるとなぜか走る馬がいて、暮れの競馬場に原因不明の波乱をもたらした。今年も「餅つき競馬」が始まっている。

 

***** 2024/12/6 *****