国立の芝

朝もはよから国立競技場を訪れた。

今日はここで試合は行われない。それでもわざわざやってきたのは、スタジアムツアーに参加するため。選手ロッカールームや競技トラックなど、普段は見たり触れたりすることのできないエリアに立ち入れるというのがウリで、4年前のオープン当初は人気だったものの、今では当日チケットで参加することができる。

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大半の参加者のお目当ては陸上のトラックだが、フィールドの芝生が気になるのは競馬ファンの性(さが)であろう。一昨日ここで早明戦が行われたばかり。それを私は2階のスタンドから見ていた。そのとき背後の観客が言ったのである。「芝、ボロボロだな」と。

私は正直そこまで悪いようには見えなかった。一部に剥げたり掘れたりした跡が集中している箇所はあるが、激しいプレーをすれば当然そうなる。そうでないと逆に危ない。選手が踏ん張ったりスパイクの歯が噛んだりしたときに、ほどよく剥がれたり掘れたりしないと重大な怪我に繋がるからだ。「剥げる」「掘れる」は天然芝の大きなメリット。人工芝にはそれがない。だから天然芝が重宝される。

今日のツアーでは芝生の上に立つことは許されなかったが、5mくらいの距離から見ることはできた。国立競技場のベースの芝は野芝だが、秋のうちにペレニアルライグラスなどの洋芝をオーバーシードして冬場でも緑を保っているという。そういう点ではJRA競馬場と運用は変わらない。

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オーバーシードのきっかけはサッカーのトヨタカップだったという。国立での事前練習を終えた選手が「ところで試合はどこでやるんだ?」と競技場関係者に聞いてきた。競馬のジャパンカップでも同じようなエピソードが残されているから面白い。東京競馬場にやって来た外国招待馬の関係者が「芝コースはどこにあるんだ?」と尋ねたのである。当時は国立競技場も、東京競馬場も、秋になれば芝が茶色くなるのはある意味当然であり風物詩でもあった。しかし、冬でも芝が青々としている欧州の人たちにとってはきっと奇異に映ったのだろう。

ツアーの最後にフィールドを見おろす4階の展望スペースに案内された。あらためて芝の様子に目を凝らしてみる。

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全体的に緑色の濃淡がまだらに見えるのは、冬芝が完全に生え揃っていないせいかもしれない。それをして例年の12月に比べて「ボロボロ」と言われた可能性はあろう。たしかに今年の秋は異常な温かさだった。12月に入ってもなお温かい日が続いている。暑さに弱い洋芝の生育にはたしかに向いていなそうだが、それでも全体的に見れば許容範囲であろう。それを「ボロボロ」と評するのが正しいのだとしたら国立の常連は芝に厳しい。

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そもそも芝の良し悪しは選手が評価すべきもの。仮に「ボロボロ」だとしても、それは選手の代わりに芝が負ってくれた傷かもしれない。掘れたり剥げたりするのが天然芝。競馬場の芝コースを実際に歩いてみれば、見た目と実際の足裏の感触の違いに驚くに違いない。

 

 

***** 2023/12/5 *****