嘘も方便

社台グループ牧場ツアーについて、昨日付けでネガティブな話を書いてしまった。きっと疲れていたのだろう。そりゃ疲れますよ。なので、今日は「良くなったな」と思ったことを書く。以前に比べて女性の引き手さんが増えたのである。

特に追分ファームは他場に比して女性が多い。リリーバレー周辺も美しく整備されていた。何人かのスタッフに聞くと「働きやすい」と声を揃える。そりゃあ会員に向かって「働きにくい」とは言わないだろうが、馬のことではなく自分のことですからね。嘘かどうかは目を見れば分かる。あとは馬たちの成績が上がれば言うことなし。

「嘘」ということでいえば、募集馬の周回展示での紹介スピーチも今回は少しトーンが抑えめだった。追分と社台では女性のスピーカーも登場。そのあたりも影響しているのであろう。聞き慣れた男性スタッフの声だとどうも嘘っぽく感じてしまう。過去に何度もこのスピーチに翻弄された記憶がよみがえるのかもしれない。

「この馬が2年後のダービーを勝つ姿が容易に想像できます!」

「活躍は約束されたようなものでしょう!」

「海外に行きたいならこの馬!」

かつてはこのようなセールストークが花盛りだった。周回展示はショー的な要素も含まれているから、場を盛り上げるために必要な演出であることは分かっているが、あまりにしつこく繰り返されると聴衆も苦笑いせざるを得なくなる。

2年後のダービーを勝つことはおろか、出走さえ果たせなかったとしても、むろん詐欺にはあたらない。そんなことを言い出したら競馬業界は大混乱だ。なにせ「新聞」と名のつくメディアでさえ、「ジャスティンミラノ2冠間違いなし!」などと堂々と書き連ねているのに、なぜか結果責任を問われることがない。

「嘘も方便」という言葉は日本ならではの文化であろうが、中でも競馬はその典型ではあるまいか。

人は聞きたいことしか聞きたがらない。相手が嫌がる真実を言って恨まれるのと、相手が聞きたがっていることを聞かせて喜ばれるのと、どちらがいいか。大半は後者であろう。それなら嘘を付けばいい。正直者の周囲はそう思っているに違いない。ご丁寧なことに、日本語には「正直者は損をする」という言葉まで用意されている。

牧場ツアーで1歳馬を引いているスタッフのコメントは、おしなべて「馬体が柔らかい」「飼い葉は良く食べる」「人の言うことはよく聞く」に集約される。

ツアー参加者はあらかじめ目当ての馬を決めてやってきている。ひょっとしたら、この先4年、5年の付き合いになるかもしれない相手だ。その初めての出会いで、たとえ本当のことであっても、ネガティブなことを言われたらどう感じるか。相手の心中を慮れば、硬い馬体だって自然と柔らかくなる。

実際の競馬の現場はガチガチのリアリズムの世界。バランスを保つために多少の嘘が必要とされているのだとすれば、そのセールストークに罪はなかろう。たとえ嘘であったとしても、実際のレースを観れば出資会員は喜び、落ち込み、時に泣く。その笑顔や涙は果たして嘘か。そんなはずはない。ご丁寧なことに日本語には「嘘から出たまこと」という言葉まで用意されている。

 

***** 2024/6/16 *****