日帰りツアーの日常感

朝もはよから社台、サンデー、G1各クラブの募集馬をめぐる牧場ツアーに参加した。昨日の本州は猛暑に襲われたそうだが、今朝の千歳は気温16度。風が冷たい……と言うよりハッキリ言って寒い。

コロナ禍前は10年以上続けて参加していたが、すべて1泊ツアーだった。馬を見るのもさることながら、主たる目的が飲み食いだったのだから当然そうなる。コロナでツアーがしばらく中止となり、やがて復活したのは日帰りツアーのみ。コロナが完全に5類に以降したはずの今年も1泊ツアーの催行は見送られた。もう1泊ツアーの復活はないのかもしれない。ならばせっかく北海道に来ているこの機会に日帰りツアーというものにも参加してみようとなった次第。

しかし、そんな軽い気持ちで参加したことをすぐに後悔した。新千歳空港集合は7時半。18時に再びここに戻ってくるまで10時間半の長丁場である。しかも頭数は1泊ツアーと変わらない。バスを降りて、ひたすら放牧地を歩いて馬を見て、バスに戻って、バスを降りて、また放牧地を歩いて―――を繰り返す。ただひたすら忙しい。

お昼がノーザンホースパークでのお弁当なのは変わらないが、時間はわずか40分である。サラリーマンの昼メシじゃないんだから。食べ終えたらまた慌ただしくバスに乗り込んだ。

午後も疲れた身体に鞭を打って歩く。「他人よりたくさん歩いて、他人より一頭でも多く見なければ勝てない」。吉田善哉さんはそう言ってたらしい。それを私は岡田繁幸さんから聞いた覚えがある。もちろん岡田さんもそれを実践していた。相馬眼といものは歩いて身に付けるのである。この二人に言われれば嫌だとは言えまい。

それでもさすがに1日で牧場を回りながら344頭は厳しい。6か所の牧場とノーザンホースパーク、それと発着の空港。移動の時間ばかりで、馬を見ている時間は以前に比べかなり減った気がする。ラストの社台に至っては時間の制約上「とりあえず見た」という状況に近い。

日帰りツアーだからなのか知らんが、オーナーズの募集馬は周回展示をしてくれないので、こちらから個別展示の立ち位置まで出向かなくてはならない。しかも何の嫌がらせか知らんが、オーナーズ募集馬たちはバスから遥か遠く離れた放牧地のいちばん奥にポツンと立たされているから、会いに行くだけでひと苦労。しかも個別展示の時間は5分くらいしかなかったりするので、とりあえず一頭だけ見て引き揚げざるを得ない。

ホントは馬の鼻面を撫でて反応を見たり、引き手さんと会話したり、調教師さんの見立てを聞いたりしたいのである。それが私の求めるツアー。子馬の写真や動画を撮るだけなら、わざわざ行く必要もあるまい。せめて1分間くらいは馬の前に立って、何かを感じたい。ただ、そのためには344分、つまり7時間近くが必要だ。要するに1日では足りぬのである。

かつてのツアーには休養中のGⅠホースが御披露目されたり、ジョッキーがゲスト参加したりと、日常では決して経験出来ない体験がギッシリ詰まっていた。移動と時間厳守の連続では普段の仕事場の光景とさほど変わらない。非日常体験を求めて人は旅に出る。牧場ツアーからそれか失われているのだとしたら、少なくともこの部分に関してコロナ禍はまだ終わってはいないのであろう。

 

***** 2024/6/15 *****