昔の名前で出ています

今週末のパリでは凱旋門賞が行われる。日本からはシンエンペラーが出走。アイリッシュチャンピオンSが期待を持てる内容だったうえ、大本命と目されていた無敗の仏ダービー馬・ルックドベガがニエル賞でソシエの3着に敗れたこともあり混戦が予想されている。海外のブックメーカーの人気順とオッズは、ソシエ(5.5)、ルックドベガ(6.0)、シンエンペラー(7.5)の順。ひょっとしたらひょっとするかもしれない。

凱旋門賞は国内馬券発売を伴うためJRAも公式に出走予定馬を発表した。ところがそこにソシエの名前もルックドベガの名前もない。よもやシンエンペラーの末脚に恐れを為して逃げたか。パリ大賞馬も仏ダービー馬も口ほどにもない。

―――なんて独り悦に入っていたら、馬名表記が変っていただけだった。これまでメディア各社はJRA-VANなどの海外競馬情報サイトの表記に従って報じてきたわけだが、今後はJRAが発表した表記に統一されることになる。ルックドベガは「ルックドゥヴェガ」。これはまだいい。驚くことにソシエは「ソジー」になった。全然違うじゃないか。

「Sosie」は仏語で「(男性の)瓜二つ」という意味。日本でも企業名や店名に使われ、「ソシエ」と表記されているケースが多いことから、パリ大賞馬 Sosie を「ソシエ」と表記したことは間違いではないし、それを現地での発音により近づくよう「ソジー」に変更したことも、別に悪いことではない。現地読みの動きが進む昨今の潮流にも沿う。

アルファベットで名付けられた馬を日本語で表記する難しさは、競馬ファンにとっては、もはや“あるある”であろう。もっとも有名なのは米国の名種牡馬 Danzig 問題。果たして「ダンジグ」なのか、それとも「ダンチヒ」なのか。Danzig が生まれてから間もなく半世紀になろうというのに、いまだ解決を見ていない。

1996年の凱旋門賞当時は「ヘリシオ」とか「エリッシオ」と表記されていた Helissio が「エリシオ」としてジャパンカップに来日。その翌年には Pilsudski が原語読みの「ピウスツキ」にも、英語読みの「ピルスドゥスキー」からもかけ離れた「ピルサドスキー」としてジャパンカップを制した。この手の問題は根が深い。とくにゆにゅう種牡馬の場合、シンジケートを組んでいたり銀行から金を借りたりしていると、あとから馬名を変更することは難しいそうだ。

Pilsudski(M・キネーン) 1997年凱旋門賞2着時

今年の凱旋門賞で筆者が違和感を感じるのはソジ―よりも、むしろルックドゥヴェガの方だ。たしかに現地表記に近づけるならそれで良いのかもしれない。しかしこの馬の父 Lope de Vega は、すでに「ロペデベガ」として筆者の耳の奥深くまで根を下ろしてしまっている。今年のマーメイドSで3着したホールネスはロペデベガの産駒だ。

ロペデベガは2010年の仏ダービーを勝ち、秋の凱旋門賞に挑んだがワークフォースの11着に敗れた。息子ルックドゥヴェガは父の悲願をも背負って出走することになる。そんな父からの連想で命名された Look de Vega は、やはり「ルックドベガ」と呼びたい。

 

***** 2024/10/1 *****