秋の札幌

武豊騎手のリーディングジョッキー獲得で沸いた今年のJRA北海道シリーズもついに終了。札幌2歳ステークスの印象が薄まらぬうちにと、こちらはリーディングサイアー独走中のキズナに会いに行ってきた。早いもので14歳になる。

キズナ

札幌2歳Sをマジックサンズが勝って、キズナ産駒は今年のJRA重賞9勝目をマークした。この数字は産駒デビューから6年目にして最多。今年の二桁勝利達成は間違いない。ジャスティンミラノが産駒初のクラシックを制覇。ダービー制覇は惜しくも逃したが、そのぶん2歳世代にかかる期待も大きい。

マジックサンズの母は全4勝を1400m以下で挙げたコナブリュワーズで、祖母が函館2歳Sの覇者アンブロワーズ。母系を見れば短い距離が良さそうなものだが、敢えて1800m路線を狙ってきたあたりに陣営の自信を感じていた。なにせレッドリヴェールアドマイヤエイカン、そしてソダシで3勝を誇る須貝尚介調教師の管理馬。札幌2歳Sの勝ち方は熟知している。

2024年 札幌2歳S マジックサンズ 佐々木大輔

レース序盤は6番手を追走。3角過ぎから大外を回って進出すると、直線入口では早くも先頭に立った。それを見ていた調教師は「思ったより仕掛けが早くて、ヒヤっとした」と振り返る。ジョッキーも「うまく乗れなかった」と反省することしきり。内を掬ったアルマヴェローチェにハナまで迫られたのだから、手放しで喜ぶわけにもいくまい。それでも勝ったところにこの馬の能力が垣間見えた。

多くの各種馬場では8月末日付で各牧場からの妊娠鑑定結果を取りまとめて、今年の交配頭数を発表する。それによると社台スタリオンで最多交配を記録したのはキズナであった。その頭数は昨年から66頭増の218頭。佐々木騎手や須貝調教師のみならず、多くの生産者たちもマジックサンズの勝利に胸を撫でおろしているに違いない。

それにしても毎年思うことがある。札幌競馬の開催期間をもう少し長くできないだろうか。9月の札幌で競馬が行われぬのは、あまりにもったいない。

札幌2歳Sの撮影のため、毎年秋に札幌に足を運んでいたことがある。秋の札幌開催が行われていた当時、札幌2歳Sは9月末か10月初めに実施されていた。メインたる中山、阪神に加え、日本馬の凱旋門賞遠征が重なれば、カメラマン不足は避けられない。そこでヒマそうな私に声が掛かったのであろう。

秋の札幌はパラダイスである。

観光客は減り、飛行機代は割安となり、しかも食べ物は日を追うごとに美味くなる。寒さに震えるにはまだ早く、残暑の東京から一気に秋のど真ん中に飛び込む爽快さは、この季節限定のちょっとした贅沢でもあった。

洋芝のみで構成された札幌の芝は本州・九州の芝に比べてモロく掘れやすい。芝コース開場以来「不良」になったことがないとはいえ、これはあくまで水はけの良さを示すもので、開催終盤には良馬場でも蹄跡だらけになる。連続開催は今が限界であろう。

だから例えば函館~札幌~函館~札幌とローテーション開催はできないだろうか。ジャングルポケットロジユニヴァースアドマイヤムーン、そして2着に敗れたとはいえゴールドシップも加えて訴えたい。彼らが北の台地から飛躍のステップとした札幌2歳Sは秋の札幌で行われていた。パドックを見ている私の指先に停まった一頭のトンボが、そんな秋の思い出を引き出してくれたのである。

 

 

***** 2024/9/2 *****