ハンディ不成立

明日のCBC賞に登録していたはずのピューロマジックの名前が出馬表に無い。逃げて重賞を連勝中の快速娘回避の報にガッカリした方も多かろう。むろん私もその一人。今週月曜日の当ブログで「メイケイエールがマークした1分6秒2を超えるかもしれない」と書いたばかりだ。

回避の理由は55.5キロのハンデにあったとされる。管理する安田調教師は「見込まれすぎ。疑問の方が大きい」として回避をほのめかしていた。GⅠ馬でもないのに、牡馬古馬に換算して59.5キロに相当すると思えば疑問を抱くのも無理はない。昨年から基礎重量を1キロ底上げしているとはいえ、GⅡとGⅢを勝っていた昨年の3歳牝馬モズメイメイでさえ54キロだった。ハンデは出走メンバーの相対的な評価で決まるものなので一概に比較はできないが、それでもGⅢ2勝のピューロマジックがモズメイメイを1.5キロも上回るかと言われたら答えに窮する。

2023年 葵S モズメイメイ 武豊

ハンデ戦は負担重量を調整することにより能力差の均等化をはかり、レースを面白くするのが目的。歴史的には古代ギリシャの昔からそうした考えはあった。競馬だけではない。陸上競技や球技、果ては決闘に至るまで。性別や体格、年齢差等により生じる実力差をハンデで埋めて対等な条件での勝負が好まれたのである。雌雄を決するのは運ひとつ。その根底には、最終的には神の審判に委ねるという思想があった。

「ハンディキャップ」という言葉自体は17世紀に英国で生まれた帽子の中にコインを握った手を入れる罰金ゲーム「ハンド・イン・キャップ」に由来する。プレイヤー2人が勝負するにあたり第三者がオッズを提示。片方のプレイヤーが勝負を降りればコインを失うが、双方が勝負を受け入れれば第三者が報酬としてコインを受け取るのである。この第三者こそ「ハンディキャッパー」の嚆矢。その歴史は古い。

18世紀に入ると競馬にもハンディキャップレースが登場。当時の競馬はマッチレースが主体で、馬の優劣ははっきりしていた。走る前から勝負が分かっていては賭けにならない。弱い方の馬主にしても、負けると分かっている相手との勝負は避けたがる。そこで騎手の体重に差を付けたり、スタート地点をずらすことで、双方に「勝ち目」があることを演出した。競馬のハンデ戦は、レースを成立させるための苦肉の策だったのである。

西日本における夏のスプリント重賞はCBC賞北九州記念。今年は施行順が入れ替わっているが、どちらもGⅢのハンデ戦で行われることに変わりはない。CBC賞を勝って北九州記念に転戦するのはごく一般的なローテだが、昨年までの直近5例のハンデの推移は以下の通りだ。

2023年 ジャスパークローネ 55 → 57(+2)
2022年 テイエムスパーダ 48 → 52(+3)
2021年 ファストフォース 52 → 55(+3)
2020年 ラブカンプー 51 → 54(+3)
2018年 アレスバローズ 54 → 56(+2)

これを見る限り52キロ以下の軽ハンデでCBC賞を勝てば3キロ増で、54キロ以上のハンデで勝っていたら2キロ増という傾向が読み取れる。だが残念なことに53キロでCBC賞を勝ったサンプルがない。今回の53キロからの2.5キロ増という半端な数字の裏には、3キロ増と2キロ増の中間にポトリと落ちた折衷案的な思惑も透けて見える。

むろんJRAのハンディキャッパーが決定したハンデだから公平・公正であることは揺るぎない。だが、出れば人気になったであろう有力馬がハンデを不服として回避したのは事実だし、ハンディキャッパーはコインを受け取ることができなかった。そもそも夏の西日本エリアで行われるスプリント重賞がともにハンデ戦なのはなぜなのか。北海道で行われる2つのスプリント重量がどちらも別定戦であることが、そんな思いを余計に募らせるのである。

 

***** 2024/8/17 *****