異端のスプリンター

今週土曜の中山メインは古馬による芝1200mのGⅢオーシャンS。

今年が19回目だから重賞としての歴史は浅い。しかし直近5年の優勝馬のうち3頭がのちにスプリントGⅠを制したように、その重要性は年を追うごとに増しているように思える。

その傾向は重賞に格上げされる前から続いていた。2002年にはここを1分7秒3の好時計で勝ったショウナンカンプが、その勢いのまま高松宮記念も3馬身半でぶっちぎっている。

1998年はハンデ戦として実施された。勝ったのはトップハンデ58キロを背負ったシンコウフォレスト。彼はこの勝利をステップに高松宮記念までも制し、一躍チャンピオンスプリンターへと駆け上がってゆく。

1998年オーシャンS シンコウフォレスト柴田善臣(左から2頭目

シンコウフォレストの母は名牝と名高いパークエクスプレス(Park Express)。自身が愛チャンピオンSを勝っただけにとどまらず、ダービーなどGⅠ5勝のニューアプローチ(New Approach)を筆頭に、ワズ(Was・オークス/英GⅠ)、アルフレッドノーベル(Alfred Nobel・フェニックスS/愛GⅠ)、クワイエットオアシス(Quiet Oasis・米重賞2勝)、ヤングプリテンダー(Young Pretender・ラロシェット賞/仏GⅢ)と、自らを起点とするファミリーラインから次々と活躍馬を送り続けている。今や世界的に枝葉を広げる良血ファミリーにあって、いちばん最初にGⅠのタイトルを手にしたのがシンコウフォレストだった。

だから、無敗の2歳チャンピオンに輝き、クラシック3冠の期待さえかけられていたニューアプローチの陣営が、3歳シーズン開幕前に「ダービーには向かわない」と発表した時は、半兄にあたるシンコウフォレストがスプリンターとして活躍していることが原因であろうと憶測を呼んだほど。世界の競馬史に名を残すほどの名馬のストーリーに、日本の馬の名前が登場したのだから今思えば驚く。実際には、直前になって「やっぱ出る」と言い出し、ダービー史上に残る圧勝劇にもっと驚かされることになるのだけど。

先日のシルクロードSを圧勝し高松宮記念でも人気の中心となるルガルの父ドゥラメンテは、数少ない産駒から2頭の菊花賞馬と2頭のオークス馬を送り出した。産駒にとって距離は長ければ長いほど良いはずだが、ルガルはドゥラメンテ産駒として初めて1200m重賞を勝った。異端のスプリンターと言って良い。それはルガルの母の父がニューアプローチであることと何か関係があるかもしれない。

2023年 橘S ルガル・角田大河

シンコウフォレストに話を戻す。彼は通算で9勝を挙げたが、9勝すべてが1200m戦だった。正真正銘のスプリンターである。だが、その勝ち時計の中でもっとも早かったのは、5歳時の武庫川Sでマークした1分8秒8と平凡。あとはすべて1分9秒以上を要した。負けたレースを含めても1分7秒台で走ったことはない。そういう意味では彼も異端のスプリンターであった。

 

***** 2024/2/27 *****