チャンピオン対決

NHKマイルカップは前身のNHK杯から模様替えして29回目。ついに、2歳牡馬チャンピオンとと2歳牝馬チャンピオンの直接対決が実現した。

ジャンタルマンタルとアスコリピチェーノ。どちらも無敗の2歳チャンピオンで鞍上は川田将雅クリストフ・ルメール。クラシック緒戦はどちらも惜敗。両者の能力は甲乙つけがたい。ファンの悩みはオッズにも表れた。単勝オッズは最終的に両者とも2.9倍で並び、1番人気を分け合ったのである。

スタートも両者互角。道中は2頭が4、5番手に並んで進む。馬群はそのまま直線を向いた。これは一騎打ちか?

しかしマッチレースの期待は一瞬にして消えた。前を行くマスクオールウィン(岩田康誠)を交わすのに、アスコリピチェーノのルメール騎手が内に進路を変えたその瞬間、前を行くマスクオールウィンも内にヨレたのである。これで内にいたボンドガールとキャンプテンシーが不利を受けた(ルメール騎手と岩田康誠騎手は制裁)。

アスコリピチェーノのルメール騎手も立ち上がってブレーキをかけざるを得なかったから、普通ならここで終わりのシーンである。そこから立て直して2着にきたのだから凄い。勝っていたかどうかは疑問だが、2頭の間に2馬身半もの能力差があるわけではないことは確かだ。いずれにせよルメール騎手の進路選択は悔やまれる。そのまま黙っていれば進路は開けた。

私が「勝っていたかどうかは疑問」と感じるのは、それだけジャンタルマンタルのレースぶりが際立っていたからだ。直線に入っても余力十分。隣で見ていたルメール騎手が、相手のあまりの手応えの良さを感じたことで、勝負を急いだのだとしても無理はない。そう考えれば不利を単なる不運として捉えること自体が間違っている可能性がある。そこも含めて勝負の流れ。これは早朝のケンタッキーダービーで感じたことでもある。

無敗でデイリー杯2歳Sと朝日杯JFを制して2歳牡馬チャンピオンとなりながら、3歳緒戦の共同通信杯で2着に敗れ、皐月賞でも惜敗しながら、NHKマイルCで2度目のGⅠ制覇を果たしたという点で、ここまでのジャンタルマンタルの成績は5年前のアドマイヤマースに重なる。あのときは2歳女王は不在だったが、桜花賞馬グランアレグリアが出走していたことを思えば、今年の構図と大きな違いはない。アドマイヤマーズはその後3歳で香港マイルを制して種牡馬となった。ジャンタルマンタルの展望は明るい。

そもそもNHKマイルカップの創設当時はクラシック競走に出走できない外国産馬の目標となるレースという位置付けだったが、その一方で3歳路線でも短距離志向が進む世界の潮流に合わせ、牡馬牝馬混合で3歳マイル王を決めようという意図もあった。その後、ホープフルSのGⅠ昇格で皐月賞、ダービー路線の整備が進み、そこを勝ったレガレイラが牝馬にも拘わらず皐月賞に出走し、ダービーに向かう。今日の2歳チャンピオン同士の直接対決が実現した今年は、3歳春路線にとって期を画する年になるのかもしれない。

 

***** 2024/5/5 *****