運命の皐月賞

NHK朝の連続テレビ小説「虎と翼」が始まって2週間が経った。昭和初期の男性優位の社会に敢然と挑み、女性初の弁護士となった三淵嘉子さんをモデルとしたストーリー。差別や法律という重くて堅そうなイメージを覆してくれるのは、伊藤沙莉さんをはじめとした出演者の技量の為せる業であろう。女性の社会進出に理解を示す法学者を演じる小林薫さんは馬主としても知られる。今日の中山8レースで所有馬ベンガンが5着と頑張った。先週の福島ではスプリンクルソルトが未勝利を見事勝ち上がっている。ドラマも競馬も好調のようだ。

競馬にも性別の壁に挑む女性が現れた。明日の明日の皐月賞の前日発売オッズは、ホープフルSを勝って敢然と牡馬に挑むレガレイラが3.6倍で1番人気。共同通信杯で2歳牡馬チャンピオンを破ったジャスティンミラノが5.1倍でこれに続く。これを書いているのは21時時点だが、おそらくレース発走時もこの順序は変るまい。皐月賞牝馬が1番人気の指示を集めれば2017年のファンディーナ以来7年ぶりの出来事となる。

牝馬皐月賞を勝てば1948年のヒデヒカリ以来76年ぶり」

メディアはそのように盛り上げている。

だがしかし。ヒデヒカリの当時のオークスは秋に行われていたことを忘れてはならない。したがって当時の3歳馬は性別を問わずダービーを目指していた。その前哨戦たる皐月賞牝馬が参戦したところで、さほど驚くことではない。実際この年の皐月賞は7頭立てで行われたが、そのうち3頭が牝馬である。前年の皐月賞牝馬トキツカゼが勝っていた。

ダービーの権威に比べ、当時の皐月賞の評価が今ほど高くはなかったことは否定できない。そもレース名からして「農林省賞典四歳呼馬競走」の時代である。しかも5月中旬の東京競馬場で行われていた。現在の皐月賞とは全然違う。そういう意味ではレガレイラが皐月賞を勝つようなことがあれば、実質的には史上初の快挙に等しい。

オークスが現在と同じダービーの前週に移設されたのは1953年のこと。この年のチェリオを最後に牝馬皐月賞出走はしばらく途絶えたが、1991年にダンスダンスダンスが出走して話題となった。マイルでは短いというのが皐月賞出走の理由。結果はトウカイテイオーに3馬身離された5着だったが、3着イイデセゾンとはコンマ1秒差の僅差だから陣営の判断が間違っていたとは言いづらい。

奇しくもレガレイラの父は共同通信杯を圧勝しながらファンディーナと同じ皐月賞で6着に敗れたスワーヴリチャード。レガレイラの走りには父の雪辱もかかっている。いくら女性が強い時代とはいえ、人気や種牡馬の評価まで背負わせるのもどうかと思うが、もはや運命と受け入れるしかあるまい。グレード制導入以降、皐月賞に挑んだ牝馬はファンディーナとダンスダンスダンスに加えてバウンスシャッセの計3頭。バウンスシャッセに騎乗したのは北村宏司騎手だった。今回の代打騎乗も運命かもしれない。運命のゲートは明日15時40分に開く。

2014年 フラワーカップ バウンスシャッセ 北村宏司

 

***** 2024/4/13 *****