秋の東京で行われるアルテミスSは2012年創設の若い重賞だが、早くもクラシックへの登竜門になった感がある。クラシックに必要なスピード能力と底力が求められる東京マイルに、敢えて挑む素質馬が揃うせいだろう。過去の連対馬にはレッツゴードンキ、メジャーエンブレム、リスグラシュー、ラッキーライラック、ソダシ、サークルオブライフ、リバティアイランドといった錚々たる名前が並ぶが、そこにまた1頭の名馬が加わった。昨年のアルテミスSの覇者チェルヴィニアが、今年の樫の女王に輝いたのである。
チェルヴィニアはアルテミスSを圧勝したあと、左後肢の半腱半膜様筋に痛みが出て阪神JFを回避。当初は軽傷が強調され、実際1週間ほどで痛みは解消したはずだが、半年ぶりの実戦で桜花賞はさすがに厳しかったのか、13着と大敗していた。
オークスが春シーズンに行われるようになった1953年以降、桜花賞13着から巻き返してオークスを勝った例はない。事実上、初の出来事。にもかかわらず同馬を2番人気に推したファンの慧眼は素晴らしい。歴史的なオークスになると信じたファンが多かったということであろう。
惜しかったのは桜花賞馬ステレンボッシュ。4コーナーまでチェルヴィニアとほぼ同じ位置取り。直線に向いて枠なりに内を突いた戸崎圭太騎手の判断も間違ってない。実際、進路はすぐに開いた。直線では能力全開。思い描いた通りの競馬をして負けたのなら相手を褒めるしかない。同じように桜花賞で強い勝ち方をしたハープスターでさえ敗れた舞台。それがオークスである。
写真を見ると右後肢を落鉄していることが確認できるが、完全に蹄鉄が外れていたので、走りへの影響は無かったはずだ。そういえばハープスターもオークスでは落鉄が話題となった。
チェルヴィニアのお母さんチェッキーノも、ルメール騎手の手綱でフローラSを勝っている。しかしアネモネSを勝って切符を掴んだ桜花賞は体調不良で泣く泣く断念。フローラSを勝って臨んだオークスはシンハライトにクビだけ及ばなかった。ちなみにそのオークスで手綱を取ったのは今日も2着に泣いた戸崎圭太騎手である。因縁は続く。
さらにその母ハッピーパスも桜花賞4着、オークス7着とクラシックにあと一歩届いていない。その孫娘チェルヴィニアが、ついにクラシックを勝って母と祖母の無念を晴らした。今日のところは孝行娘の頑張りを素直に讃えよう。
ともあれ、これでこの世代では4頭のチャンピオンが誕生したことになる。アスコリピチェーノ、レガレイラ、ステレンボッシュ、そしてチェルヴィニア。すべてノーザンファーム生産馬で、うち3頭がサンデーTCの募集馬だから凄い。4頭が同じレースで顔を揃えたことは一度もないのは、距離適性もさることながら、使い分けの意図も見え隠れする。しかし、少なくとも距離に関しては2000mなら4頭とも文句はあるまい。そのための秋華賞ではないか。いちばん強い馬を決めるのが競馬。ファンもそれを望んでいる。
***** 2024/5/19 *****