登録の重み

日本ダービーの優勝賞金は、ジャパンカップ有馬記念に次いで国内のレースで3番目に高い3億円。しかし付加賞があるから厳密にはもっと高い。今年の場合、優勝馬には約2700万円が支払われる。付加賞と言えども、実入りが1割増しとなればバカにはできない。

はるか昔はさらに付加賞に重みがあった。例えば1着賞金が1万円の時代で、かつ付加賞制度のあった9回のダービーのうち7回は、本賞金より付加賞の方が多かったと記録に残る。すなわち馬主の負担が相当に大きかった。当時の登録料は200円だから馬主は1着賞金の50分の1を負担していたことになる。1着賞金3億円の現在に当てはめると、600万もの登録料を支払う計算だ。

そんな大金を一括で支払うとなれば、ためらいがあっても仕方ない。そこで登録を4回に分けて行う方式(現在は3回)が取られる。何度も繰り返し行われるクラシック登録は、巨額な登録料の分割払いの意味もあって生まれた。

現在では、2歳10月の最終金曜日に締め切られる第1回登録が1万円、3歳1月の第2回登録が3万円、そしてダービー直前の最終登録に36万円を収めることになっている。合計40万円。第2回までの登録料はさほど負担を感じさせないが、それでもクラシック登録のない3歳馬は少なくない。

1950年はクモノハナが皐月賞とダービーの2冠を制したが、もしウイザートが出ていたら勝負の行方はわからなかった。なんとダービーの直前まで11連勝もしたウイザードに、クラシック登録がなかったのである。それから38年後、空前の競馬ブームを引き起こすオグリキャップにも登録がなく、ウイザードと同様、クラシックとは無縁の3歳春を余儀なくされている。

未登録の理由は能力判断によるところがもっとも多いと思われるが、意外にも関係者の手続き忘れというのも後を絶たない。馬にしてみればたまったものではなかろう。そこで登場したのが追加登録制度という救済手段。未登録の馬でも一定の資格を得て200万円を払えば、クラシックに出られることになったのである。テイエムオペラオーキタサンブラックが、この制度を利用してクラシックを制したのは記憶に新しい。

1999年 皐月賞 テイエムオペラオー 和田竜二

今年で言えば、きさらぎ賞勝馬ビザンチンドリームにクラシック登録が無かった。皐月賞に続き、ダービーも追加登録料200万円を支払っての出走となる。クラシック5競走のうち、桜花賞皐月賞オークス菊花賞では追加登録馬が優勝した例があるものの、日本ダービーを勝った例はない。ビザンチンドリームが勝てば初のケースとなる。

ノーザンファーム生産のエピファネイア産駒であるビザンチンドリームだが、ひと頓挫があってシルクHCでの募集が見送られた経緯がある。結果的に牧場名義となったが、クラシック登録が無かったのもそのあたりが影響しているのであろう。逆にレガレイラは牝馬でありながら皐月賞とダービーに登録されていた。それだけでも驚くべき慧眼だが、サンデーTCはさらにもう1頭の牝馬を牡馬クラシックに登録していたという。それが先日のオークスを勝ったチェルヴィニア。第1回登録の締切はアルテミスSの前日だから、この勝ちっぷりを踏まえて判断したわけではない。そこが凄い。

2023年 アルテミスS チェルヴィニア C・ルメール

レガレイラは8300ユーロ(約133万円)の登録料を支払って凱旋門賞への登録を済ませている。ダービーの結果がどうなるかは分からぬが、追加登録料が12万ユーロ(約1920万円)と高額であることを思えば、早めの登録に越したことはない。こうしてみると日本の追加登録システムは、欧米に比べれてずいぶんと値頃感が漂う。ウイザートの時代にこの制度が欲しかった。

 

***** 2024/5/22 *****