ダービー翌日の恐怖

「体調はなんともないの?」

自宅で朝メシを食べていると、不意に家人がそう聞いてきた。昨夜飲んだ覚えはないし、発熱もない。食欲もすこぶる旺盛で、まさにこれからごはんのおかわりに立とうとしたところだ。まったく体調に不安はない。

1997年 日本ダービー サニーブライアン 大西直弘

かつての私は、半年に一度のペースで決まって体調を崩していた。それが安田記念の週とチャンピオンズカップの週。つまり日本ダービーの翌週とジャパンCの翌週である。症状としては下痢と嘔吐を繰り返し、高熱と身体中の激痛に苦しめられる。お医者は「胃腸炎」と言って薬を処方してくれるが、それが決まって半年おきに現れるのはどう考えてもおかしい。ダービーとJCに原因があると考えるのは自然のなりゆきであろう。

1999年 日本ダービー アドマイヤベガ 武豊

ダービーは1年間にも及ぶ壮大なドラマの最終章。気付かぬうちに疲労が溜まっていたとしてもおかしくはない。加えてこの時季は梅雨入りの発表も重なる。東京開催は変わらぬが、2回東京から3回東京への開催替わり。競馬のサイクルにおいては大きな節目でもあり、季節の変わり目でもある。「ダービーだ。ダービーだ!」と見た目は浮かれていても、身体は疲労蓄積のピークであったとしてもおかしくはない。

2001年 日本ダービー ジャングルポケット 角田晃一

むろん毎年のことゆえ用心はしてきた。うがい&手洗いの励行はもちろん、ダービーウィークはいっさいの酒席を断り、万全の体調管理に努めているのである。それでも毎年同じ結末を迎えてしまうのだから虚しい。しかもその症状は年を追うごとに悪化の一途をたどっていた。

2003年 日本ダービー ネオユニヴァース ミルコ・デムーロ

酷いのは頚から肩、背腰を経て爪先まで身体中を支配している筋肉の張りである。ちなみにこれはダービーを走った馬の話ではない。ダービーをただ観戦しただけの私の話。むろんダービーを見終えてからトライアスロンをした覚えもない。馬なら間違いなくササ針放牧のケースであろうが、そんな痛い目に遭うのも嫌だ。さらに高熱と胃痛が精神を蝕む。眠れぬ布団の中でどうしたものかと悩んでいると、突然両脚のふくらはぎが攣ったりする。はっきり言って激痛である。それでも悲鳴を上げられないのは、寝静まる家族のため……ではなく、あまりの痛みに声さえ出ないというのが正しい。両手をで足を掴んで、伸ばそうとすると、今度は背中が攣りそうになるので、結局はただひたすら痛みに耐える時間が続いたものである。あんな思いは二度とごめんだ。

2007年 日本ダービー ウオッカ 四位洋文

ところが、2019年からダービーのナマ観戦を控えるようになってからというもの、そんな症状が徐々に軽減してきた。そしてついに今年は完全に解消。堂々の完治宣言である。昨夜は良く寝た。朝メシも美味い。競馬への熱が冷めたと思えば多少さみしい気もするが、トシと共に接し方を変えることができなければ、長く付き合うこともままならない。

2013年 日本ダービー キズナ 武豊

なんて油断していたら、一日遅れで今夜あたり来るんじゃあるまいな。筋肉痛も二日酔いも一日遅れで来るトシ頃でもある。今夜も船橋に行ったりせず、とっとと帰っておとなしく布団に入ろう。

 

***** 2024/5/27 *****