陸上競技の100m競走のコースを想像してほしい。スタートラインからフィニッシュテープまで、いったい何メートルだろうか?
答えはきっちり100m。当たり前だ。だが、これが競馬となると当たり前ではなくなる。たとえば今週の安田記念は1600mで行われる。といってもゲートの扉から決勝線までの距離を測って、ピタリ1600mになることはあり得ない。実際にはそれよりも多少長い。
これはゲートが本来の距離から離れた場所に設置されるため。ゲートから約5mほど先の内ラチ沿いに待機する係員の目の前を通過するタイミングで、係員は黄色い旗、いわゆる時計旗を降る。それが計測開始の合図。つまり5mは助走区間のようなものだ。この区間のタイムは計測されない。時間にして1秒前後。普段ならほとんど気にも留めないような短い時間だが、これが馬券検討に影を落とすことがある。
今週の安田記念に香港からロマンチックウォリアーとヴォイッジバブルの2頭が参戦してきた。前者は言わずと知れたGⅠ7勝の香港最強馬。後者はマイルGⅠのスチュワーズCを勝った香港のトップマイラーで、昨年の香港マイルではナミュール、ソウルラッシュ、セリフォスらに先着する2着に入っている。ワンツーフィニッシュがあっても不思議はない。
その一方で香港調教馬は高速決着への不安が常に付きまとう。最後に香港の馬が勝ったのは2006年のブリッシュラック。時計は1分32秒6だったが、その翌年から昨年まで17回のうち実に11回までが1分32秒0以下のタイムで決着している。それを踏まえると、せめて32秒台前半の持ち時計が欲しい。しかしヴォイッジバブルの持ち時計は1分33秒74。ロマンチックウォリアーの持ち時計はそれよりちょっと遅い1分33秒80。果たしてこれで足りるだろうか。
しかし、過去安田記念で快走した香港調教馬は、軒並み東京競馬場で1秒前後も持ち時計を短縮してみせている。前述のブリッシュラックも、同年3着のジョイフルウィナーも、2005年の3着馬サイレントウィットネスもそのパターン。2018年に来日したウエスタンエクスプレスも、10着に敗れたとはいえ1分32秒9の持ち時計をコンマ6秒上回る1分32秒3で乗り切ってみせた。2000年のフェアリーキングプローンも、自己ベストを更新する走りで優勝を果たしている。
理由はいくつかあるだろうが、もっとも端的なことを言えば、香港競馬ではタイムの計測開始地点がJRAよりゲートに近いことがあげられる。スピードに乗る前から計測を始めれば、1秒程度遅くなっても不思議ではない。多くの香港馬が日本で持ち時計を大きく詰める理由はここにある。
ヴォイッジバブルを管理するプーンファイ・イウ調教師は、これが4度目の来日参戦。2010年には10番人気のウルトラファンタジーでスプリンターズSを制している。8歳にして持ち時計を2秒以上も縮める快走だった。このレース、1番人気グリーンバーディーも香港からの遠征馬だったが7着に敗れている。香港馬は人気薄が怖い。
***** 2024/5/28 *****