「こんな混んでる大井は久しぶりだ」
パドックを幾重にも取り囲んだファンの人垣を見て、馬主関係者がポツリと漏らした。スタンド内部はあまりの人に身動きできず、馬券発売窓口、トイレ、売店はことごとく長蛇の列。加えてネットが繋がらず電子マネーは使用不可。それが混乱に拍車をかけている。喫煙所は人が溢れて外で吸う輩が続出。久しぶりに内馬場も開放された。入場人員は37,259人だったという。ホクトベガの帝王賞77,818人の半分にも満たないとはいえ、近年では記録的な入りと言ってよかろう。
競馬場に人が集まる理由はメンバーが良いから。それに尽きる。あと2戦で引退が決まっているウシュバテソーロの走りを見届けたい。今年生まれ変わった“初代”東京ダービー馬・ラムジェットの古馬初対戦は見逃せない。そして何よりフォーエバーヤングをひと目観てみたいーーー等々。ナマでレースを観たいと思わせる理由はひとつとは限らない。
このレースは海外でも注目を集めていると聞いた。ロジータの当時から東京大賞典を定点観測してきた筆者にとっては、感慨深いものがある。パドックにはあのレジェンドも登場。役者は揃った。
いちばんのスタートを決めたのはフォーエバーヤング。ハナに立とうと思えば立てる勢いだったが、外からクラウンプライドが来るのを待って番手でしっかりと折り合う。3~4コーナー中間で坂井瑠星騎手が押して並びかける際は、一瞬反応の悪さが垣間見えたが、先頭に立ってしまえば後ろから交わされることはない。「(直線で)もう負けないと思った」と振り返るあたりは、朝日杯FSの川田将雅騎手のコメントにも似る。展開を思えば1馬身3/4差の着差よりも力量差を認めざるを得ない。3歳にしてこの強さ。ダート界はついに1強時代に突入した。
レース後、矢作調教師からはサウジカップを目指すことが発表された。ウシュバテソーロは引退レースとなるドバイワールドカップへと向かう。強い日本馬は今やどんどん世界を目指す時代。一方で国内のダート路線は整備が進み、新しいチャンピオンが続々と誕生している。そんな国内組と海外組が年に一度真剣勝負を繰り広げる―――。そんな特別な舞台として、我が国レース体系の中でも独自の存在感を発揮していくのが、俺たちの東京大賞典。南関東を根城にする地方馬主としても、これ以上誇らしいことはない。
***** 2024/12/29 *****