パリ五輪は12日目を迎えたが、今大会はやたらと接戦が目立つ。
体操男子団体決勝で逆転優勝した日本と中国との差はわずか0.532点だったし、男子ハンドボールのクロアチア戦や男子バレーボールのイタリア戦も最後の1点が勝敗を分けた。柔道団体決勝や男子ゴルフも同様。しかし、いくらほぼ同じとはいえ、そこにわずかでも「差」があれば勝敗は決する。それが如実に現れたのが陸上男子100m決勝であろう。
7位までが写真判定の大激戦は、ライルズ選手(米国)とトンプソン選手(ジャマイカ)がともに9秒79でともに先頭ゴール。しかしこの場合1000分の1秒単位のタイムで着順が決められる。結果、ライルズ選手がトンプソン選手をわずか1000分の5秒だけ上回って金メダルを獲得した。
我々凡人は普段の生活で1000分の5秒という時間を意識することはまずない。それがネットでも話題となった。いわく「0.005秒差なんてないのと同じ」「同着で良いのではないか」など。しかし競馬ファンはどう捉えただろうか。1000分の5秒と聞けば想像もできぬ時間だが、距離に置き換えると5センチである。この程度の着差なら競馬では珍しくもない。写真判定にはなるが、普通に「ハナ差」として扱われるだけだろう。ちなみに今日8月7日は「ハナの日」でもある。
競走馬が走る速度は陸上選手より速い。ゆえに1000分の5秒の差は8センチ程度に広がる。判定写真に登場するスリット幅(9センチ)に近い。こうなれば写真に頼らずとも目視で確認できるファンもいるだろう。つまり競馬ファンの多くは知らず知らずのうちに1000分の5秒を体感しているのである。
ともあれライルズ選手のタイムは9秒784、トンプソン選手は9秒789だったそうだ。ただし正式記録は両者とも9秒79と発表されたから、陸上の場合1000分の1秒単位は切り上げるものらしい。
それを聞いて我が国の競馬を思った。海外の競馬では100分の1秒単位での時計表示が主流なのに、我が国においては10分の1秒単位での運用が続いて久しい。実際には100分の1秒単位で計時しているのに、発表時に100分の1秒単位を切り捨てているのである。だから1分32秒00と1分32秒09は、記録上はともに1分32秒0の同タイム。混乱が生じないのは「アタマ」や「1馬身」といった距離差も合わせて発表されるからであろう。
しかし、上り3ハロン、4ハロン、ハロンラップなどに距離発表はない。着差が時計表示のみの競馬新聞もある。「0.1秒」の着差は、実際には0.01秒差の場合もあれば、0.19秒の場合もあるからやっかいだ。距離に換算すればクビと3/4馬身ほど違う。これを時計的に「同じ」と扱う現在の運用には疑問の声が少なくない。
「そもそも100分の1秒を競う競技ではなく、どの馬が強いのかを決めるのが競馬。その必要性を感じていません」
こう言ってJRAは100分の1秒単位での運用に否定的な考えを示している。だが、この回答は誤解を生みかねない。たしかに競馬はタイムトライアルではない。しかしセンチ単位の差をあぶり出して勝利判定を行っている。1996年のスプリンターズSでフラワーパークとエイシンワシントンの勝敗を分けた差はわずか1センチ。これを時計に換算すれば10000分の6秒弱である。JRAの言う100分の1秒どころか、1000分の1秒よりも短い時間を競っているではないか。

せめてレコードタイムに限っては100分の1秒単位の発表にすることはできないだろうか。海外に合わせろと言うのではない。これまで「タイレコード」として扱われてきた勝ち時計の中には、100分の1秒単位での比較なら従来のレコードより速い時計だったケースが相当数あると思われるからだ。
***** 2024/8/7 *****