内と外の苦悩

「大外とか最内だったら園田競馬場を爆破」

先週、SNSにそんな投稿をした人物が逮捕される騒ぎがあった。動機は「応援している馬の枠順が不利だと勝ちづらくなる」というもので、実際に爆破するつもりはなかったものの、もし応援する馬がそのような枠に入ればレースを止めさせる意図はあったという。長いこと競馬を観ていきた筆者でも、競馬の枠順絡みで逮捕者が出たというケースは記憶がない。

これを聞いて思ったのは、世間に与える大きさを顧みることなく、軽い気持ちで投稿できてしまうSNSの怖さ―――なんて真面目なことではなく、「園田の大外や最内はそんなに不利だろうか?」というシンプルな疑問だった。園田の競馬を丸三年観てきたが、むしろ逆だったような印象がある。競馬漬けの日々を過ごしていると、社会問題よりもウマの方に興味が向いてしまっていけない。

ともあれ件の投稿がなされた前後の開催、具体的には5月29日~31日、6月5~7日の園田競馬72鞍の結果を調べてみると、最内1番枠が勝ったレースが14鞍で大外枠が勝ったレースは8鞍だった。合計22勝。その勝率は3割を超えている。決して低い数字ではない。

2022年 摂津盃 シェダル 吉村智洋

地方の小回りコースは逃げ・先行が圧倒的に有利。最内枠であれば無理せず好位を取ることができる。1枠有利の傾向は当然の成り行きであろう。その一方で園田や佐賀など一部の競馬場では外枠有利説もある。内側に向かって路盤が低く傾斜しているので、外より内の方が砂が深い。すなわち内側を走るには余計に力を使わされることになる。逃げ馬が内ラチから数頭分を空けて進路を取るレースは、園田や高知、佐賀などでは見慣れた光景だ。

これは水捌け対策の一環でもあるが、外枠救済策と見る向きも少なくない。何もしなければ最内枠が圧倒的に有利。しかしそれではレースがつまらない。距離の有利不利を砂の深さで帳消しにして公平性を担保しようというのである。どちらが有利かは砂の状況次第。ちなみに先週、園田で行われた重賞・六甲杯は8枠2頭での決着だった。

「大外枠を引いた」という言い回しがあるように、枠順決定に際しては「引く」と表現することが多い。昔の枠順抽選では、先端に馬番号が書かれた細長い木片を、関係者がおみくじのように引き抜く方法で枠順抽選を行っていた。「枠順を引く」の表現は当時の名残りである。

とある地方競馬場では、何年も同じ木片を使っていたせいで、木目やキズや色合いといった微細な特徴で番号がだいたい分かってしまっていたという。今となっては笑い話であろう。

もちろん今は違う。コンピューターが乱数表を用いて枠順を編み出してモニタに表示するだけ。実に味気ない。それに合わせて、関係者も昔ほど枠順にこだわらなくなった気がする。ただ、負けた時の言い訳として極端な枠は理由にしやすいことも事実。「枠が内過ぎた」あるいは「外過ぎた」という言い訳は真ん中の枠では使えないし、分かりやすい敗因としてメディアも同調しがちだ。それがファンの間に不利説を広めてしまった可能性はないか。

2023年 摂津盃 ツムタイザン 杉浦健太

競馬において枠順による有利不利が存在することを否定するつもりは毛頭ない。大外や最内を極端に苦手とする馬がいることも理解している。筆者の所有馬が三度続けて大外枠を引いたときは、競走課に文句のひとつも言いたくなった。だからといってレースを止めてしまえと思ったことは一度たりともない。枠順以外にも競馬においては数多くのファクターが存在する。それらすべてに完璧を求めることなど土台無理な話。枠順はそんなファクターのほんのひとつに過ぎぬ。そういう割り切りも大事であろう。

 

***** 2024/6/12 *****