補欠からの栄光

フェブラリーSに登録のあったシャマルサンライズホークの2頭が相次いで回避を決めたことで、補欠順1番目のアルファマムと2番目のオメガギネスの繰り上がり出走が決まった。ある程度予想されたこととはいえ、2頭の関係者は安堵したことだろう。

もとよりこの2頭は補欠でありながらファンの注目も高かった。アルファマムはレイチェル・キング騎手を、オメガギネスに至ってはクリストフ・ルメール騎手をそれぞれ確保。補欠の立場でありながら有力騎手が身体を空けていたことは、期待の大きさの現れでもある。とある競馬情報サイトの独自オッズでは、出走未確定ながらオメガギネスが1番人気の支持を集めていた。もし出走が叶わなければ、出走馬決定ルールが再びやり玉に挙げられた可能性もある。ついでに、前走でオメガギネスの手綱を取りながら不覚を取った戸崎圭太騎手にも批判の矛先が向いていたに違いない。

オメガギネスはデビュー以来ダートばかりを走って(3.2.0.0)。昨秋のグリーンチャンネルカップでは、フェブラリーSと同じ東京マイルで古馬のオープン馬を相手に3馬身半の圧勝劇を演じたことで一気に評価を上げた。しかし、それよりも筆者としては最後の最後に繰り上がった「運」を評価したい。走順上位馬の回避によって補欠から繰り上がり出走を掴んだ馬が、そのまま優勝してしまう例が、ことダートのビッグレースでは珍しくないのである。それはフェブラリーSとて例外ではない。

ちょうど10年前。2014年のフェブラリーSコパノリッキーは、登録時点では補欠1位タイだった。だが出走順上位のテスタマッタが突然の引退を発表。コパノリッキーは1頭分の枠を巡って、同じく補欠1位タイのケイアイレオーネを抽選で破り、晴れて出走を果たした。最低人気も仕方あるまい。しかし結果は堂々の先行策から完勝。殊勲の田辺騎手は、もともとはテスタマッタに乗る予定だったから、まさに「塞翁が馬」ではないか。

2014年 フェブラリーS コパノリッキー田辺裕信

出走馬と補欠馬との間に、さほど力量差がないこともあることの好例。裏を返せば、優勝馬に匹敵する能力を持ちながら、無念にも除外された馬が過去に多く存在したことを示唆している。しかし現実問題として、そんなことを言い出したらキリがない。「人間万事塞翁が馬」は文字通りウマにまつわる故事ではある。しかし、この意味するところがもっとも端的に現れるスポーツと言えば、競馬をおいてほかにあるまい。

 

【ダートGⅠ級競走での繰り上がり優勝例(カッコ内は回避馬)】
1999年 東京大賞典    ワールドクリークウイングアロー
2006年 ダービーGP   マンオブパーサーフサイチリシャール
2014年 フェブラリーS  コパノリッキーテスタマッタ
2015年 JBCスプリント コーリンベリータガノトネール
2017年 川崎記念     オールブラッシュ(グレンツェント
2017年 帝王賞      ケイティブレイブコパノリッキー

 

***** 2024/2/14 *****