【太麺礼讃⑤】きじやのきしめん

むかし、札幌競馬場最寄のJR桑園駅に直結するガード下に、きしめんの専門店があった。いつか入ってみたいと思いつつ、入店を果たす前に閉店してしまったのは痛恨の極み。ランチタイムと夜だけの営業だったので、競馬場の行きも帰りも営業時間外だったのである。競馬場からわざわざバスに乗って駅に戻るのもしんどい。結果行きそびれてしまったわけだが、北海道にきしめんなんて珍しいと思ったことは印象に残っている。

そんな珍しいきしめん専門店を、ススキノから中島公園へと向かう途中に発見してしまった。その名も「きじや」――――。あれ? このお店、桑園にあったお店と同じ名前じゃないですか? ひょっとして移転してきたのかしらん。

しかし、今宵の筆者はジンギスカンからラーメンを挟み、寿司へとハシゴした直後である。正直、腹はパンパン。しかしここで入らねば一生後悔することは間違いない。店内も空いていそうだ。これは入るしかない。

名古屋では溜まり醤油をベースにした真っ黒なツユが一般的だが、こちらのツユは関西風で透き通っている。札幌の人の好みに合わせているのかもしれない。宗田鰹やムロアジを使ったダシからは上品な香りが漂い、ほのかな甘みが感じられるツユは、さんざん飲んだあとの胃腸を優しく包んでくれる。うん、美味い。

きしめんは言ってしまえば単なる平たいうどんだが、国によってちゃんと規格が定められている。幅は4.5ミリ以上で厚さは2ミリ未満。これを満たしていなければ「きしめん」と呼ぶことはできない。その呼び名の由来には、江戸時代に紀州藩から贈られた「紀州めん」がなまったという説や、尾張藩主が好んで食べた、キジの肉を入れた「きじめん」が転化したなど様々。ともあれ、江戸時代には現在の形が完成されていたという。

その麺だが、こちらの「きじや」でも道産小麦「きたほなみ」100%の自家製麺を使っているらしい。どうりでコシと滑らかさが違ったわけだ。一昨日付の本欄にも書いた通り、道産小麦にこだわるうどん店が道内には続々誕生している。しかしそれがきしめんとなるとやはり珍しい。

さらに聞くと、やはりかつて桑園のガード下で営業していたあのお店だという。現在の地に移転してきたのは10年ほど前。ただ、桑園の前はススキノで営業していたとのことなので、厳密には「戻ってきた」が正しい。いずれにせよ奇跡の邂逅と言ってよかろう。札幌では希少なきしめん専門店だけに、今後も長く続けてほしい。次回は腹を空かせて来よう。

 

***** 2024/9/3 *****