血の利と呪縛

中山競馬場は10レース発走直前に雨が降ってきた。しかし馬場を悪化させるほどの雨量ではない。Cコースに変更されたばかりの芝コースは、今週も内有利の傾向は変わらぬであろう。立ち見スタンドでは傘の花がポツポツと咲き始めた。

オールカマーで人気を集めるのはレーベンスティール。単なる馬券の人気に留まらない。パドックは10レース前からもう人垣。「トウカイテイオー」というワードもあちこちから聞こえてくる。背後の客はトウカイテイオーが勝った1993年の有馬記念をナマで観たのだと連れに自慢していた。31年も経てば昔話であろう。そういえばあのときのトウカイテイオーも3枠4番だった。

もちろんレーベンスティールにも不安が無いわけではない。田中博康調教師は中山の芝2200mはベストの舞台ではないと言い切った。それでも天皇賞・秋への出走を目指すのなら、収得賞金を持たないレーベンスティールはここを通過するしかない。

ただ、私個人は中山コースに関しては楽観視している。トウカイテイオー皐月賞有馬記念など中山で4戦3勝。さらにその父シンボリルドルフは1984年の弥生賞を手始めに1985年有馬記念まで中山は6戦全勝である。そしてさらにその母の父スピードシンボリに至っては有馬記念2勝を含む中山重賞6勝の巧者。そこには何らかの血の利があるはずだ。レーベンスティール自身、東京2勝に対して、中山では3勝を挙げている。

むしろ私の不安はコントロールが難しい彼の気性にあった。パドックに姿を現したレーベンスティールは最後尾を歩いている。今回も二人引き。常歩ができているだけエプソムカップよりはマシだが、今にも爆発しそうな危うい気性は変わりない。もはやこれは受け入れるしかないのだろう。それを御せるジョッキーに任せるしかない。ルメールさん、お願いします。

2024年 オールカマー レーベンスティール C・ルメール

レーベンスティールは好発から3~4番手を確保。普段より前だご距離とペースを考えれば妥当であろう。1000mの通過は61秒のスロー。しかし1200m通過からの5ハロンはすべて11秒台だから完全に逃げ馬のペースになった。勝敗を分けたのは危険を承知でインを突いたルメール騎手の判断だ。観ているこっちはヒヤヒヤしたが、外を回していたらあの半馬身は届かなかったかもしれない。

前が開いてからは能力全開。とはいえ前が開いても弾けない馬もいる。それをきっちり持ってくるところがルメール騎手の凄いところ。折り合い。進路取り。そして馬を動かす技術。やはり一流は違うと感心しつつ、それに応えた馬も立派だったと褒めたい。

2024年 オールカマー レーベンスティール C・ルメール

ともあれこれで天皇賞・秋への優先出走権は得た。トウカイテイオーも、シンボリルドルフも、どちらも1番人気で敗れた因縁のレース。父のリアルスティールも2度挑戦しなかまらあと一歩が届かなかった。そんな血統の呪縛を解くことができればストーリーとしては完璧。むしろ出来過ぎの感すらある。調教師はGⅠを獲らねばならない馬だと言い、ジョッキーもGⅠレベルと太鼓判を押してくれた。それでも、この馬に関してはレースに合わせるのではなく、馬に合わせなくてはならないジレンマがある。それで昨年は香港という結論になったが、いろいろな意味で失敗だった。もう失敗は繰り返せない。

 

***** 2024/9/22 *****