「悪いトコが出ちゃってるなぁ」
パドックに現れたレーベンスティールを見て思わず呟いた。今にも爆発しそうな危うい気性をギリギリで我慢しているのが見て取れる。パドックは終始小走り。気合が入っているというより、何か違うことを考えてイライラしている。これはいけない。なにせ重賞の舞台で1番人気を背負っているのである。

私が愛読しているサンケイスポーツ(東京版)では◎印が一人もいない。21人もの予想記者がいながら本命はゼロ。逆に佐藤洋一郎氏を除けば無印の記者もいない。能力は認めるが信用できない。そんなところであろう。事実、このパドックを見ればそれも頷ける。
前々走でシンガリ負け。前走も11着大敗。初めて背負う59キロと不安要素を上げればキリがない。過去40回のエプソムカップの歴史を紐解けば、59キロはおろか、58キロでの勝利例もないのである。
それでもこの馬は常に人気を集める宿命にある。デビュー戦でソールオリエンスと叩き合いの死闘を演じたところからストーリーは始まった。ほとんどのレースで上り最速を記録するレーススタイルに加え、父リアルスティールよりは母の父トウカイテイオーに似た容姿も人気を後押しする。トウカイテイオーの現役時代を知らずとも、ウマ娘でトウカイテイオーを知ったファンからの支持が厚いのだそうだ。
待避所からスタート地点に向かうレーベンスティールを見て驚いた。スムースな常歩ができているじゃないか。そのフォームには力みもなく、頸を上げてリラックスできている。かえし馬から待避所のわずかな時間でルメール騎手はいったい何をしたのか。いずれにせよ、これなら勝てる。そう確信した瞬間、馬券の発売締切のベルが鳴った。
好発を決めたレーベンスティールは無理なく好位を追走。直線で外に持ち出されると、アッと言うまに馬群から抜け出した。後続に2馬身差なら完勝と言ってよかろう。

しかも騎手に言わせれば楽勝だったらしい。ルメール騎手がレース後のインタビューでそう語っていた。上がり33秒7は今回もメンバー最速。勝ち時計1分44秒7はレースレコード。開幕8週目の荒れた馬場で、しかも59キロを背負ってそれを記録したのだから凄い。それでいながら「結構楽な勝利」と騎手が振り返るあたり、やはり底知れぬ能力がある。しかし一方で気性の危うさも残った。新潟大賞典はそれがモロに出た格好。3着に敗れた昨年のラジオNIKKEI賞も、巷では騎乗ミスが指摘されたが、間近で見ていた私は馬の方に問題があったと考えている。

この気性の難しさは馬が人を見ていることと無関係ではあるまい。そう思うのはお母さんのトウカイライフがそうだから。牧場で引き手が変わると性格が一変するのである。だとすればルメール騎手はさすがだ。僅かな時間で馬を手の内に入れてしまうあたりも技術の為せる業に違いない。

やはり母方の血が強く出ているのであろう。リアルスティールに似ているのは1800mが滅法得意ということくらい。柔らかいフットワークはトウカイテイオーそのものだ。トウカイテイオーも1992年の有馬記念で11着に大敗したあと、翌年の有馬記念で復活を遂げている。今にして思えば新潟大賞典の11着は吉兆だった。レーベンスティールの次走は果たしてどこか。続けて使えないところもこの馬の弱点のひとつ。そういうところまでトウカイテイオーを彷彿とさせてならないのである。
***** 2024/6/9 *****