負けて覚える馬券かな

初場所5日目の両国国技館を訪れた。2階椅子席は客の大半が外国人観光客。しかし、土俵で凌ぎを削る力士たちもずいぶん前から外国人ばかりなのだと思えば、客層の方がようやく追い付いた感もある。

ちなみに「力士」は英語で「スモウ・レスラー」。では「相撲部屋」は何と言うか。驚くなかれ「スモウ・ステーブル」である。すなわち「相撲厩舎」。これを聞いて驚く人は多いが、私はこれ以上の訳語はないと喝采を送る。なにせ競馬と相撲には共通項が多い。

一代年寄を除き百五に限定される年寄株は内厩制の調教師制度に通ずるし、相撲のタニマチは競馬なら馬主であろう。夜も明けきらぬ早朝からトレーニングに励み、それを「稽古」と呼ぶのも一緒。物言いが付けば勝負審判が場内に競技結果を説明するが、これなどは競馬における審議にも近い。500万条件とか1000万条件という階級は相撲の番付そのまま。国技館に入ればプログラムや番組表を手に取るのも競馬場と同じ。かつて1着同着の際に行われていた「再走」などは、さながら相撲の優勝決定戦の様相であったに違いない。

競馬に天皇賞があれば、相撲には天皇賜杯がある。天覧相撲に天覧競馬。皇室の方にゆかりが深いというのも一緒なら、女性ファンの進出が目覚しいことも共通している。加えてどちらも八百長への風当たりが、ことさらに強い。

パワーに任せた押し相撲を武器に、前相撲から一気に番付を挙げる力士がたまに現れる。小錦とか曙とか巨漢の外国人力士に多くいた。では、競馬ではどうか。

外国産馬ヒシアケボノは、スピードに任せた逃げを武器に未勝利から1600万条件まで怒涛の4連勝。瞬く間に番付を上げた。横綱と同じ名前は、その巨体に由来する。5連勝を掛けた京王杯オータムハンデは堂々の1番人気。だが、快速牝馬オノデンリンゴにハナを叩かれて、3着に敗れた。その後も勝てないレースが続く。さすがに重賞クラスとなると、スピード一辺倒では押し切れない。順風満帆のヒシアケボノが壁にぶつかった。

相撲も同じ。突き押し一辺倒ではやがて壁にぶつかる。しかし、そこからが本当の勝負。四つ相撲を覚えて技を磨く。スタイルを変えなければ、頂点にはたどり着けない。やがて控える競馬を覚えたヒシアケボノは、4角5番手からスプリンターズを制してみせた。こんなエピソードひとつとっても、相撲と競馬の距離の近さを感じずにはいられない。

しかし例外もある。競馬のディープインパクトが無敗で三冠を制した時、当時の横綱朝青龍は記者にこう語った。

「馬になりたい。勝っても負けても愛されるからな」

負けて客席が沸き、勝ってため息が漏れる。寂しき一人横綱の宿命に違いない。その何気ない呟きは相撲と競馬との距離を感じさせるに十分だった。朝青龍白鵬のような圧倒的な強さを誇る横綱がいなくなって久しい。相撲は戦国時代が続いている。

 

***** 2024/1/18 *****