淀の2マイルに挑む牝馬

過去168回の歴史を持つ天皇賞を勝った牝馬は16頭。このうち15頭は秋の天皇賞を勝っている。一方で春の天皇賞を勝った牝馬は1953年のレダをおいてほかにない。

秋に関して言えば、過去30年でもエアグルーヴヘヴンリーロマンスウオッカブエナビスタ、そしてアーモンドアイの5頭が勝っている。一般に天皇賞牝馬は分が悪いとされるがが、出走頭数が牡馬の1割にも満たない状況を考えれば、秋の天皇賞ではむしろ牝馬の健闘ぶりが目立つ。

これは、春の牝馬が「フケ」という問題を抱えていることと無関係ではないとされる。重いか軽いかは個体差があるが、たとえ軽いものであってもフケの最中はレースに集中できないことが多い。

エリザベス女王杯から鳴尾記念日経新春杯と破竹の3連勝を飾り、阪神大賞典メジロマックイーンの3着に好走して勇躍春の盾に臨んだタケノベルベットは、メジロマックイーンメジロパーマーライスシャワーらを向こうに回し牝馬としては異例の5番人気に推されるも、見せ場のないまま10着と敗れた。その敗因はフケとされている。こればかりは自然の摂理であるから、もしそれに出くわしたら頭を抱えるよりほかはない。

グレード制導入後の春の天皇賞で、もっとも人気を集めた牝馬は2005年にオーストラリアから遠征してきたマカイビーディーヴァ牝馬として初めてメルボルンカップ連覇を果たした豪州の女傑で、3200mではGⅠばかり走って3戦全勝という屈指のステイヤーだった。しかも、南半球の馬だから日本の春シーズンにフケがやってくる可能性は薄い。1番人気のリンカーンのオッズ5.4倍に対し、マカイビーディーヴァのそれは5.8倍と、実質的にそれほどの差はなかった。

ただ、彼女は日本の硬い馬場がどうしても馴染めなかったようで、結果7着に敗れている。とはいえ勝ったスズカマンボからはコンマ6秒しか離されておらず、展開次第でこの着順はいくらでも入れ替わったと言われても、特に否定する理由は見つからない。

さて今年の天皇賞・春には3頭もの牝馬が出走するが、注目となるとやはり武豊騎手が手綱を取るサリエラをおいてほかにいない。

「盾男」の異名を誇る武豊騎手はとりわけ春の天皇賞を得意としている。すでに8勝をマークしているが、これは同一GⅠ競走の勝利数としては最多記録。ちなみに同一重賞最多勝記録「京都大賞典9勝」の記録も武豊騎手が保持しているから、よほど京都の水が合うのであろう。

武豊騎手がイナリワンで初めて春天を制したのは20歳の時だった。「いかに馬と仲良くするかを考えました」というコメントを残している。その思いはおそらく今も変わるまい。騎手デビューから35年。歴史的名手と良血牝馬が新たな伝説に挑む。

 

***** 2024/4/25 *****