続・適正の壁

ダート適性の話の続き。ダート転向は騎手の進言で実現することも少なくない。芝でのレースを終えて、ダートコースを引き揚げてくるときの脚さばきや、調教での走りからダート適性を感じるそうだ。このあたりは、乗っている人間にしか分からないものがあるのだろう。

2015年の根岸S皐月賞ロゴタイプが出走したのも、ミルコ・デムーロ騎手の進言がきっかけだったとされる。「ダート適性もあるから一度使ってみるといい」。デムーロ騎手がそうコメントしたことが根岸S直前のスポーツ紙に大きく報じられると、ロゴタイプのダート適性は瞬く間にファンの間に広まった。しかしそのコメントは、2歳秋のベゴニア賞を勝った直後に発せられたもの。根岸Sから2年以上も昔の話だった。

彼はダートの走りが悪くないことを伝えたに過ぎず、「1400mのダートのGⅢで勝ち負けになる」と言ったわけではない。ファンもその辺を気にしたのか、前売りでは1番人気だったが、レースを迎えるころには3番人気に落ち着いた。しかも勝ったのは1番人気のエアハリファだから、ファンはやはり良く見ている。

エアハリファはデビュー以来ダートばかりを使われて、通算19戦8勝2着6回という堅実派だった。ダート適性の高さは疑いようがない。しかしデビュー前のエアハリファには芝路線という話もあった。脚捌き、体の柔らかさ、調教で見せる瞬発力を勘案すれば芝が合いそうだというのである。実際、レースに乗った騎手たちも芝適性があると言ってくれた。だが、ダートで結果が出ていたことに加え、オーナーの希望もあって、芝を使われる機会はついに訪れなかった。

一方、証明済みの芝適性に加えて、ダート適性をも試される格好となったロゴタイプは8着に終わった。直線でいったんは抜け出しそうになりながら、そこでパッタリ止まったレースぶりから、彼のダート適性をどう評価すればよいのか。調教師が「砂を嫌がるそぶりはなかった」と言えば、手綱を取ったクリスチャン・デムーロ騎手は「芝の方が良い」と言う。正直この一戦だけで適性を判断するのは難しい。

勝ち馬からコンマ5秒差は先行グループの中ではいちばん粘っている。スタートからあれだけ仕掛けていけば、そりゃあ最後は止まりますよ。結果的に最内枠がアダになった。1400mの距離にも戸惑いはあったろう。しかも他馬より重い58キロ。私は合格点を上げたい。

しかしこの根岸Sを最後にロゴタイプがダートを走ることは二度と無かった。結果的に翌年の安田記念を勝つことになるのだから、それで正解だったに違いない。そもそも適性があっても負けることがあるのが競馬。それをたった一回のレースで見極めるのは至難の業だ。

 

***** 2024/1/26 *****