三井不動産や読売新聞社ら11社で構成される企業グループが築地市場跡地の再開発予定者に選定されたらしい。再開発の核として話題となっているのが「超多機能スタジアム」。野球、サッカー、アメフト、ラグビー、バスケ、テニス、アイスホッケー、フィギュアスケート、eスポーツ、さらにはコンサートや演劇、見本市にも対応可能で、フィールドの形状やスタンドは用途に応じてトランスフォーメーションすると謳っている。しかしそこには「競馬」や「馬術」は含まれていない。残念ですね。ちなみに米国MLBにはロデオ競技に対応できるスタジアムがいくつかある。
国の後押しもあってスタジアム・アリーナの建設ラッシュが続く昨今である。その一方で札幌ドームのようにイベント誘致やネーミングライツ募集に苦戦しているスタジアムもなくはない。札幌ドームの有効活用法を巡ってネットは大喜利花盛り。このさい札幌競馬場を移転してしまえという意見まで出てきた。
実は札幌競馬場は2000年代に移転が議論されたことがある。移転を要請したのは札幌商工会議所。移転先は驚くなかれ札幌ドームの隣である。羊ヶ丘周辺に広がる広大な農水省所管地に、新たな競馬場を建設しようという計画だった。しかも過去に例を見ない「ドーム型競馬場」だったのである。
競馬場をドームで覆う全天候型競馬場構想には当時も驚かされた覚えがあるが、その完成予想図を見てもっと驚いた。スタンドもコースもひとつの屋根ですっぽり覆った競輪場「前橋グリーンドーム」みたいなものを作るのかと思ったら、そうではない。スタンドは普通の形態のままで、馬が走るコースの上部だけをオーバルのドームで覆ってしまおうという斬新なアイディアだったからである。
さらに計画では、
①新札幌競馬所で施行されるGⅠレースの創設
②JRA札幌開催の1~2開催分の増加
③道営ホッカイドウ競馬のナイター開催を実施
④通年開催
といったことが謳われていたと記憶する。当時の道営ホッカイドウ競馬は旭川のナイター開催だったが、慢性的な赤字で存廃論議が起きていた。そういう意味では起死回生を狙った一打だったのであろう。
札幌商工会議所の計画が公になる前に、吉田照哉氏が社台グループ会報誌の中で私見を述べていた。以下に引用させていただく。
「ところで、いまの北海道の競馬関係者を中心に、ひとつの話題が盛りあがりつつあります。札幌の中心地から南東へ車で20分ほどの豊平区の一角に、新しい競馬場を建設しようという計画です。 ~(中略)~ そして、せっかく新しい競馬場をつくるなら、いままでの日本にはないまったく新しいタイプの競馬場にしてほしいと思います。では、新しさとはどういうことでしょうか。その具体的な部分を考えるときに、思い浮かぶのが先に申しあげたアスコットの風景です。地形そのままのアンジュレーションを取り入れ、直線は長く、カーブの緩い広大なトラックを丘のスタンドから一望のもとに見下ろす、そんな自然に溶け込んだ美しさを再現するだけの地理的条件を候補地は備えているのです。」
幸か不幸か札幌競馬場の移転計画は実現することなく、現存施設のリノベーションという形で決着した。それでも現在の札幌競馬場には駐車場不足や連絡バスの少なさなど課題も多い。札幌記念のGⅠ昇格を実現するには今の札幌の敷地は狭すぎるという問題もある。狭いコース、狭いスタンドでのGⅠはレースの格をかえって下げてしまいかねない。そういう意味では移転話が再燃する可能性は十分ある。
その際はまだドームありきの計画になるのだろうか。吉田照哉氏が嘆く姿が目に浮かぶ。「自然に溶け込んだ美しさ」には雨も道悪も含まれるはず。それをなくして果たして「競馬」を名乗れるだろうか。透明なケースに包まれた競馬をスタンドから眺めれば、さながらゲームセンターの競馬ゲームの風情に近いものがありそうだ。
***** 2024/4/24 *****