小倉の短い夏

久しぶりの小倉遠征、強烈な夏の日差しを覚悟してやってきたが、小倉の空は雲に覆われていた。最高気温は28度。蒸し暑いことは確かだが、ナツコク特有の灼けるような暑さではない。

それもそのはず。北九州はまだ梅雨である。阪神競馬場改修の影響だかなんだか知らんが、今年の夏の小倉は2か月近く前倒しされて今日から4週間だけ開催される。ナツコクだと思ってやってきたらツユコクだったなんて洒落にもならない。ともあれ6月の小倉競馬場に来るのは私自身初めてだ。

これに戸惑う人もいるのではないか。開催期間が博多祇園山笠のシーズンと重なる一方で、競馬場前の北九州市立大学は夏休み前。真夏の名物・赤ウニの旬にも早い。そもそもナツコクの開催期間は、暑熱対策、職員の東京五輪対応、京都・阪神の改修影響などの事情により毎年コロコロ変えられてきた経緯がある。これではファンにも浸透づらい。さらに4週間というあまりに短い開催期間が、さらにファンの足を遠ざけてしまっているように思える。

2019年 7/27-9/2(12日間)
2020年 8/15-9/6(8日間)
2021年 7/3-7/17、8/14-9/5(14日間)
2022年 7/2-7/24、8/13-9/4(16日間)
2023年 8/12-9/3(8日間)
2024年 6/29-7/21(8日間)

戸惑うのは人だけではない。馬にも影響がある。特に九州産の2歳馬の多くはナツコクに照準を合わせてデビューする。九州産馬限定の新馬でデビューし、たとえ負けても九州産馬限定の未勝利戦を使う。もちろん大目標は九州産馬限定のオープン特別ひまわり賞。ただ、今年は6月に新馬がスタート。ひまわり賞はその4週間後である。陣営はそれに合わせた仕上げを強いられる。九州産馬にとってもナツコクが4週間開催では短い。昨年のひまわり賞には3連闘が10頭もいた。

今日の小倉5レース、九州産馬限定の新馬を勝ったのはエイヨーアメジスト。父は芝の短距離路線で活躍したアレスバローズで、これが産駒によるJRA初勝利となった。ほとんど追うところもなく9馬身差だから九州産馬同士のここでは力が違ったと言うべきであろう。

2024年6月29日 小倉5R エイヨーアメジスト 田口貫太

九州産馬限定レースを行うのは、競走馬の大半を占める北海道産馬に比べて九州産馬が弱いからである。その原因は血統にあるとされてきた。有力な種牡馬は北海道に集まるのだから仕方ない。しかし、今日のレースにカレンブラックヒルやマインドユアビスケッツの産駒が出走していたように、輸送状況が改善に伴い種牡馬レベルのハンデは徐々に取り除かれつつある。

他方、気候に原因を求める声もある。北海道に比べて温暖な気候は、馬の生産にとってプラス面ばかりとは限らない。たとえば「草」。深い雪に覆われて、大地が一度“死ぬ”北海道だからこそ、馬に適した良い草が生えてくるのだという。九州はその暖かさがむしろ邪魔になるというのだ。

昨年のセレクションセール出身で注目を集めたアウダースは大きく敗れてしまったが、これは九州産馬限定レースでは起こり得ること。多少無理をしても限られたレースを使わなければならないのだから、こういう結果が出ても驚かない。それでまた同じ思いに至る。夏の小倉開催をもっと増やせないのだろうか。九州の馬産復興には、それしかあるまい。

 

***** 2024/6/29 *****