適性の壁

先週の東海Sでバビットが自身初となるダート戦に挑戦した。ラジオNIKKEI賞とセントライト記念を逃げ切ったかつての行きっぷりは、今ではすっかり影を潜めて8連敗中。「ダートなら行く気を出すかもしれない」と新味を求めての出走だったが、終わってみれば大差のしんがり負けに終わった。スタートからハナを切って飛ばしたものの、向こう正面でズルズルと後退したレースぶりに調教師は「ダート適性は無かった」として次走は芝に戻す考えを示している。

一方で、昨年のNHKマイルカップを勝ったシャンパンカラーもフェブラリーSで始動するらしい。今年は海外遠征を視野に入れていることから、早めにダート適正を見極めておきたいという意図があるようだ。レモンポップもウシュバテソーロも出走しないことで、フェブラリーSの存在意義を問う声も聞こえてくるが、海外遠征を見据えた芝実績馬のダート適性を測る舞台としては役に立っているようだ。ただそれがGⅠに相応しいかどうかは、また別の話であろう。

最近では競走馬の大半がダートOKの血統背景を持つ。加えて芝でも、ダートでも、そしてオールウェザーでも、コースを問わず常に最高のパフォーマンスを繰り出す馬こそが真のチャンピオンだとする考えが世界の共通認識となった。だがその一方で、フェブラリーSでダート初挑戦の馬が勝利を収めたことがないことも、動かしようのない事実だ。

2017 デニムアンドルビー 16着
2013 カレンブラックヒル 15着
2012 グランプリボス   12着
2010 ローレルゲレイロ   7着
   リーチザクラウン  10着
   レッドスパーダ   12着
   スーパーホーネット 15着
2009 ダイワスカーレット  回避
2008 ヴィクトリー    15着
2007 オレハマッテルゼ  16着
2001 トゥザヴィクトリー  3着
2000 シンボリインディ   9着
   キングヘイロー   13着
1999 ビッグサンデー    9着
1998 ブレーブテンダー  11着
   イナズマタカオー  16着
1997 マイネルブリッジ  12着

いくら芝で活躍していたとしても、いきなりダートのGⅠ級を相手に、勝ち負けするのは簡単ではないことを、過去の実績が物語っている。ダート適正の壁はそうやすやすと越えられるものではない。

1991年のこのレース(当時はハンデGⅢ)を勝ったナリタハヤブサは、今となっては伝説的な「ダートの鬼」。60.5キロを背負いながらダート1600mの日本レコード1分34秒5をたたき出したことでも知られる。だが実はこの馬、4歳秋まではずっと芝路線を歩んでいたことをご存じだろうか。ダート初挑戦は4歳冬のウインターS。それも6番人気と低評価だった。しかし、いきなりレコードタイムで重賞初制覇を飾ると、返す刀で続くフェブラリーHでもレコード勝ちを納めてしまう。

クロフネが東京ダート1600mを1分33秒3という芝並みのコースレコードで独走したのも、エスポワールシチーが小倉ダート1700mで後続を7馬身も千切り捨てて圧勝したのも、両者にしてみれば初ダートの一戦。のちにダートのチャンピオンにまで昇り詰めるような馬は、初めてのダート戦でいきなりその能力の片鱗を見せてきた。

彼らの「初ダート」のシーンを振り返るとき、ダートのチャンピオンたる資質を秘めていたにもかかわらず、その適性が試されることのないまま「普通に強い馬」として引退していった強豪馬の存在を考えないわけにいかない。もしダイワスカーレットフェブラリーS出走が実現していたら歴史的な圧勝劇を演じていたかもしれないし、エルコンドルパサーがダート路線を突き進んでいたら全米チャンピオンになっていた可能性だってある。

馬券的な取り捨てはさておき、シャンパンカラーの初ダートには、やはり注目しないわけにはいかない。もし勝てば、種牡馬ドゥラメンテにとってもひとつの壁を超えることになろう。

 

***** 2024/1/25 *****