南関東のダートグレードレース体系は新設あり移動ありと今年から大きく手が加えられた入ったが、昨日のダイオライト記念は例年通り3月の船橋2400mで行われた。変わったのは4月に移された川崎記念の前哨戦という立ち位置。そうなると距離短縮の可能性もゼロではないぞと気になっていたが、ダートグレードとして国内最長距離レースであることに変わりはない。
今年の優勝馬はセラフィックコール。2番人気で12着と大敗したチャンピオンズカップの反省から「地方のゆったりとした距離」を求めてやってきた。その条件に見合う条件はこのレースをおいて他にない。離れた3番手追走から、2周目の3コーナーあたりから得意のロングスパート。地方の小回りコースは初めてのはずだが、戸惑いは感じられない。むしろ小回りのリズムが合っているようにも思える。あっという間に先頭に立つと4馬身差で圧勝。その瞬間、ホクトベガのダイオライト記念を思い出した。
ホクトベガは道中は中団から後方を楽々と追走。多くの馬が息をいれたがる向こう正面から徐々に仕掛けて、3コーナーで前を行く馬に並びかける間もなく先頭を奪う。そのまま2番手を大きく突き放し、4コーナーを回った時には既に大勢は決していた。直線は流すだけなのに、それでも後続は追いつくことができない。それがホクトベガの形である。彼女が人気を集めたのは、単に負けなかったからだけではない。その破天荒ともいえるレースぶりに多くのファンが心酔した。
6歳時のホクトベガは、1月の川崎記念を皮切りに、東京、船橋、高崎、大井、川崎、盛岡、浦和と、ダートの交流重賞を求めて各地を転戦している。その先々で、彼女のレースぶりをひと目見ようと、ファンはこぞって競馬場に押し寄せた。
1996年のダイオライト記念当日の船橋競馬場の入場者数は19520人。念のため書いておくが平日の昼間開催である。そんな大観衆の視線を一身に浴びて、ホクトベガはいつもの3角まくりを繰り出した。先頭で直線に向くとスタンドが大きく沸く。歓声に交じって聞こえてきたのは、当時の競馬場では珍しかった拍手。そしてわずかばかりのため息も。ゴール板を駆け抜ける瞬間には満場が割れんばかりの拍手に包まれた。地方競馬であのような光景を見たのは、このダイオライト記念が初めてだったと記憶する。
あれから28年が経った昨日、船橋競馬場の入場者数は2793人にとどまった。コロナ禍を経て本場よりもネットに軸足を移した昨今の今となってはやむを得ない部分もあるとはいえ、ネット越しでは感動も半減であろう。やはり競馬はナマで観てナンボ。今日、船橋で生観戦した人がその体験を自慢できるよう、セラフィックコールには更なる活躍を―――できることならホクトベガ級の活躍を望みたい。
***** 2024/3/7 *****