春の雪

弥生賞が終わればコートは無用―――。

そんな季節感で暮らしているので、今朝の雪には正直面食らった。すでに暦は啓蟄を迎えている。冬ごもりを終えて地上に出てきた生き物たちも驚いたに違いない。

競馬への影響が無かったのは何より。なにせ明日の中山牝馬Sは雪に祟られやすい。メジロランバダが勝った1998年は雪で順延。一番人気の快速牝馬クロカミは、雪の影響が残る道悪馬場に泣いた。2020年は大雪舞う中での雪中競馬。各馬が実力を発揮しにくい状況ではあったが、中でも人気の中心だったコントラチェックがしんがりに敗れたことはまだ記憶にあたらしい。ちなみにこの日は東京にソメイヨシノ開花宣言が出されていた。

弥生賞のあとであろうが、桜が咲いたあとであろうか、東京にも雪は降る。1988年に完成した東京ドームでの最初の公式戦はこの年のプロ野球開幕戦。4月8日の巨人対ヤクルトだが、この日東京は大雪に見舞われた。4月に積雪9センチは異例であろう。2日後に行われた桜花賞で人気を集めたスカーレットリボン、スイートローザンヌシノクロスといった関東馬はことごとく敗れるのだが、少なからず雪の影響があったのかもしれない。

馬場にとっても雪は大敵だ。芝コースの除雪作業は今も人海戦術に頼らざるを得ない。中山の場合、その作業に必要な人数は800人を越える。ダート競馬でも影響がないわけではない。雪が降るとコースには不凍液が撒かれるが、それが飛び散るとことで馬がフレグモーネを発症することがあるし、騎手にしても皮膚に触れればひどくしみるから、集中力を欠いて思わぬ事故を誘発する危険性もある。

東京ドームが完成した冬は雪が多いシーズンだった。この冬の中山競馬場で、ミホシンザンの引退式が中山競馬場で行われる予定だったが、あいにくその日は大雪。引退式は翌週に延期されるが、なんとその週も中山は大雪に見舞われたのである。 

降りしきる雪の中レースは始まったが、それでも2レース終了後に開催は打ち切られた。しかし引退式は予定通り行われ、そのために多くのファンが競馬場に残っていたことを思い出す。東京生まれの筆者にとって雪は珍しいもの。その非日常的な景色と相まって、様々な記憶がイメージを伴って深く刻み込まれている。

 

***** 2024/3/8 *****