草競馬

大井競馬場大井町駅を結ぶ無料バスが今日で最後の運行を終えた。まだ実感はないものの、次開催からは京急立会川駅のお世話になることになる可能性が高い。大井町駅とはおさらばだ。

立会川駅のホームでは、列車が近づく際の警告メロディにフォスターの名曲「草競馬」が使われている。私より上の世代では、TBSの名番組「クイズダービー」を連想する方も少なくあるまい。

世間には未だに地方競馬を指して「草競馬」と言う人がいるが、私にはそれが気に障る。そりゃあ元を辿れば草競馬だったかもしれない。だが今は違う。現代の草競馬自治体や牧場のイベントなどで行われる素人(とも限らないが)のお祭りのこと。仮にNPB以外のあらゆる野球を「草野球」と呼べばきっと叱られる。

フォスターの「草競馬」の原題は「Camptown Races」。もちろん「Grass Races」ではない。それでは芝のレースになってしまう。この場合の「草」は「本格的ではないが、それに準じている」という意味の接頭語。草野球、草相撲、草芝居も同じ用例となる。

ちなみに「Camptown」とは西部開拓時代の鉄道敷設時に設営されたテント村。そこで行われていた娯楽としての草競馬が題材となっている。その歌詞の中に「トラックは5マイル」と謳われているから、皆さんの抱く草競馬のスケール感や、楽曲「草競馬」の持つ軽快なリズムから受けるイメージとはかけ離れているかもしれない。我が国の草競馬は、1周数百メートルという超小回りコースで行われることがほとんど。しかも「草」と言っておきながら、草ではなくたいてい砂の上で行われる。

――なんていろいろ書いてきたが、私自身が草競馬を見下しているつもりはない。むしろ好き。あそこで草競馬が行われるよと聞けばスッ飛んでいく。なにより人馬と見る側が近いのが良い。

北海道のばんえい競馬と草競馬の間には密接な関係がある。ばんえいの競走馬の中には、デビューする前や馬体成長を待つための長期休養中に、北海道や東北で行われている草競馬に出走して、実戦形式の調教を積む馬が少なくない。また、田中勝春騎手のように子供の頃から地元の草競馬で騎乗技術を磨いた騎手もいる。

明日は日経賞が行われるが2016年の日経賞を勝ったゴールドアクターのオーナー・居城要氏は、もともとは草競馬の馬を所有されていたという。それが高じていつしかJRAの馬主となり、ついにはグランプリを制してしまった。私のような弱小零細馬主には希望の光。立会川駅で降りるたび、草競馬に遥かなる夢を見るのも悪くない。

 

***** 2024/3/22 *****