【追悼抄】藤岡康太騎手を偲ぶ

トレンドワードの上位に突然その騎手の名前がランクインされたのを見てやるせなさでいっぱいになった。

藤岡康太騎手が逝去。先週土曜の阪神競馬7レースで落馬し、意識不明の状態が続いていると伝えられていたが、ついに意識が戻ることはなかった。35歳と聞けば、悲しみよりも悔しさが先に立つ。そのレースを私は阪神競馬場で観ていた。なのに、前ばかり見ていてその落馬に気付かなかった自分が恥ずかしい。場内実況も落馬には触れなかったような気がする。レース後、はるか遠くの3コーナーに係員が集まっているのを見た。そのときはそれだけ。我ながらなんとひどい態度を取ってしまったのかと、今は反省の思いしかない。その思いが悔しさを倍増させている。

2014年 府中牝馬S ディアデラマドレ 藤岡康太

デビューは2007年3月であるから、正味17年の騎手人生であった。通算成績はJRA803勝。うち重賞は22勝。多くのメディアでこのように報じられているが、ここに地方18勝とダートグレード3勝も加えておきたい。つまり「通算821勝、重賞は25勝」である。

2021年 須磨特別 ロータスランド 藤岡康太

個人的には「代打の切り札」の印象が強い。ナミュールを勝利に導いた昨年のマイルチャンピオンシップがその最たるもの。オースミスパークで勝った小倉大賞典は落馬負傷の赤木高太郎騎手から急遽回ってきた手綱で挙げた勝利だったし、負傷の福永祐一に代わってワグネリアンの手綱を取り神戸新聞杯を勝ったこともある。秋緒戦を迎えるダービー馬の手綱となればプレッシャーは小さくあるまい。それでも彼は乗り替わりで結果を出してきた。

2021年 京都大賞典 マカヒキ 藤岡康太

昨年はキャリアハイの63勝をマーク。それを上回るペースで今年は勝ち星を積み重ねていた。2024年はいよいよ飛躍の年―――。本人も、周囲も、誰もがそう思い始めていたに違いない。そんな矢先の落馬事故である。「好事魔多し」などという浅い表現で済ませたくない。競馬の神様は本当にひどいことなさる。しかも一度や二度ではない。

2018年 日本ダービー出走時

それにしても騎手とはなんと危険な職業であることか。普段からそう思っているつもりだが、こういうニュースに触れると、哀しい現実が心の奥に突き刺さってなかなか抜けない。親交のある騎手が鎖骨を骨折したと聞いてお見舞いの言葉をかけたら、相手は「鎖骨で良かったよ」と笑った。その時は私も一緒に笑ったが、その言葉の奥には笑って済ませられぬ現実がある。とにかく今は静かに藤岡康太騎手を偲びたい。故人のご冥福を心よりお祈り申し上げる。

 

***** 2024/4/11 *****