芦毛は消えず

今にして思えば、フェブラリーS2着のガイアフォースは実に惜しい星を落とした。ダート未経験馬による初優勝を逃したからというのではない。もし勝てば久しぶりの芦毛の牡馬によるJRA・GⅠ制覇だった。2019年にウインブライトが香港カップを勝ち、オメガパフュームが2021年まで東京大賞典4連覇という偉業を達成した例はあるものの、ことJRAの舞台に限れば2018年スプリンターズSレッドファルクス以来6年間も芦毛牡馬はGⅠから遠ざかっている。

近年の芦毛界を支えてきたのは、アエロリット、ノームコア、クロノジェネシスといった牝馬たち。ここに白毛のソダシを加えてもやはり牝馬である。すでに彼女らは牧場に戻って繁殖生活を送っているが、生まれてくる子は年に一頭。しかも、その子が芦毛に出るとは限らない。現時点で、現役牡馬の芦毛馬のうち重賞ウイナーは5頭。彼らが種牡馬となってくれないと、いずれ芦毛が消えてしまのではないかと心配になってくる。

2017年 NHKマイルC アエロリット・横山典弘

なぜ芦毛は少ないのか。基本的には芦毛馬の父親も、母親も、遺伝の法則によりその産駒に約半分しか芦毛を伝えないことが知られている。隔世遺伝はしないので、仮に地球上から一時期でも芦毛が消えてしまったら、もう二度と復活することはない。絶えず消滅の危険と隣り合わせ。ならば、逆に芦毛はどんどん減っていくかといえばそうでもない。そこが不思議でならない。

かつて芦毛馬はいわれのない迫害を受けてきた。「芦毛は能力に劣る」という迷信はまだ序の口。ナポレオン登場前の欧州では「芦毛が生まれたら悪魔にくれてやれ」とさえ言われたという。

我が国でも江戸時代は「芦毛は悪し毛なり」と武士に嫌われた。その理由は芦毛馬にありがちな弱い白爪にあったとされるが、明治期に入ると今度は敵の標的になりやすいという理由から馬政局は芦毛馬の競馬出走を禁止する命令を出す。芦毛は絶えず消滅の危険にさらされながら、今日まで生き延びてきたのである。

2012年 有馬記念 ゴールドシップ内田博幸

オメガパフュームのみならず、クロノジェネシスゴールドシップ、そして何と言ってもオグリキャップがそうであったように、注目を集める大一番で芦毛馬が見せる勝負強さには何度も驚かされてきた。遺伝法則からして、彼らは芦毛を伝えるか否かの両親の1回勝負のジャンケンに、だいたい30回くらい連続して勝ち続けた方の子孫。だから勝負強いのだという説を私は信じたい。

白い馬体が躍動する姿を観るたび、消えそうに思える芦毛馬はそれでもやっぱり途絶えないのだと再認識させられる。それが人が芦毛馬に惹かれるもっとも大きな理由のように思えてならない。初めて競馬場を訪れたファンはたいてい芦毛馬を応援する。それはある意味で正しいのである。

 

***** 2024/2/22 *****