三大うどん(水沢)

三種の神器」「日本三景」「御三家」「日本三大祭り」など、物事を三つまとめて言い表した言葉は昔から多い。「一富士、二タカ、三なすび」や「心技体」のように三つの要素を括った言葉もある。競馬でも「三冠馬」や「サラブレッド三大始祖」は言うに及ばず。「テンよし、中よし、終いよし」といった格言も三括りの範疇に違いない。

うどんにも「三大」がある。誰が決めたのか試練が、讃岐うどん稲庭うどん水沢うどんということになっているらしい。讃岐と稲庭については説明の必要は無かろう。問題は水沢である。筆者はかつてこれを水沢競馬場のお膝元、岩手県奥州市水沢の名産品だと勘違いしていた。きっと水沢の駅前はうどん屋が軒を並べているに違いない。そう信じて降り立った水沢駅前にうどん屋は一軒も無かった。ちなみに、ライブリマウントが勝った南部杯マイルチャンピオンシップのこと。現代のようにネットに情報が溢れている時代ではなかった。

そこから話は現代に飛ぶ。ネットでうどんの情報を漁っていたら、有楽町交通会館に水沢うどんの専門店があることを知った。私が大阪に行ってる間に開業したらしい。水沢うどんの生麺を自宅で茹でて食べたことはあったが、実はその特徴を掴めずに困っていたのである。もちろん美味しい。でも普通。讃岐や稲庭と並び「三大」と謳われるからには、それに匹敵するような特徴があるはず。五島うどんや武蔵野うどんや伊勢うどんには無い何かが。専門店ならばそれが分かるに違いない。

お店の屋号は「八重桜」という。注文を受けてから茹でているというその麺は、透明感のある平打ちの縮れ麺だった。刻んだネギとミョウガがたっぷり入った胡麻ダレにつけていただく。麺は薄いのにしっかりとコシがあり、つるりとした食感は官能的ですらある。正直この量では足りない。でもメニューに大盛に関する記載はなかった。あるいは水沢うどんは大量に食べるような無粋な食べ物ではないのかもしれない。

カウンターにはラー油が備えてある。前半終了時点で数滴投入する。これがまた美味い。しかし五島や武蔵野を凌駕し、讃岐や稲庭に匹敵するかと問われれば答えに窮する。そもそもこの胡麻ダレが水沢うどんの正当な食べ方なのか。それすらも分からない。

水沢うどんの商標登録店組合によると、「水沢うどん」を名乗れるのは小麦粉と塩、水沢の水だけを使ったうどんのみなんだとか。そういう意味ではつけ汁や麺の形状に決まりはないのだろう。それが特徴を失わせているような気がしてならない。同じような食感やコシの強さを誇るうどんは他にもある。差別化のポイントが「水沢の水」ではあまりに分かりにくいではないか。

水沢うどんは江戸初期に伊香保温泉近くの山あいにある水沢観音の門前で、巡礼にうどんを振る舞ったのが始まりという。そういう意味では伊勢うどんの成り立ちにも近い。結局は現地で食べるべきうどんなのだろう。三大云々を言うのは、それからだ。

 

***** 2024/1/29 *****