三大うどん(讃岐)

飯田橋に昨年オープンしたうどん店「讃岐ブルース」を訪れた。使用するのは国産小麦のみ。さらに熟成中は音楽を聞かせているという、直球と変化球が織り交ざったこだわりを持つ一軒らしい。

変わったこだわりと言えばもうひとつ。季節限定らしいが、この店では鍋焼きうどんを出している。実際注文しているお客さんも多い。その器は讃岐のお隣、伊予松山の鍋焼きうどんのそれと同じ。それでちょっとわからなくなった。そもそも讃岐うどんって何だ?

讃岐の地にうどんが根付いた経緯には諸説あるが、讃岐生まれの空海弘法大師)が唐への留学中に麺作りの技法を習得し、帰国後に伝え広めた―――という説は、真偽のほどはともかくとしてストーリーとしても楽しく、受け入れやすい。そもそも稲作に不向きで小麦を作るしかなかった土地である。しかも塩やイリコ、醤油にも困らない土地柄だった。これらを勘案すれば、うどんがこの地に広くそして深く根付くことは、むしろ自然の流れであるように思えてならない。

全国生麺類公正取引協議会により「讃岐うどん」のルールが定められている。それによると、

香川県内で製造されたもの
②加水量40%以上
③加塩量3%以上
④熟成時間2時間以上
⑤15分以内で茹で上がるもの

以上5項目を満たしたものを讃岐うどんとするらしいのだが、ここにあるのは製法だけで味の特徴には触れられていない。何と言っても讃岐うどんの味の良さは、良質の小麦を材料に「土三寒六」(夏は塩1に水3、冬は塩1に水6)と呼ばれる独特の塩加減と、強靭なコシであろう。つい最近まで各家庭でうどんを打つことが珍しくなかった“うどん県”ならではの食文化が、そうした特徴を高いレベルで保っている。讃岐うどんとは、すなわち讃岐に息衝く文化なのであろう。

そんな蘊蓄すら讃岐うどんには相応しくない。讃岐の人は「うどんは別腹」と言いながら、何かにつけうどんを食べている。コシのあるうどんをズルズルと音を立て一気に流し込む瞬間の愉悦は何ものにも代えがたい。香川出身の南原清隆さんはテレビ番組で「うどんを食べていると、歯茎の裏側に快感が走って目の奥がチカチカして記憶をなくす」と説明した上で、その状況を「うどんハイ」と表現した。ほかのうどんで、ここまでの表現を聞いたことはない。うどんハイの境地を目指して「香川一福」に立ち寄った。うどんは別腹なのである。

弾力、粘り、伸び。これぞザ・讃岐という一杯に言葉もない。新聞もテレビもネットも勘違いしてるが、何でもかんでも言語化できると思ったら大間違い。讃岐うどんが何かと考えることも同じこと。つまりは「食えば分かる」を結論とするほかはない。



 

***** 2024/2/9 *****