どんぶりいろいろ

かつ丼は競馬場の人気メニューのひとつ。メニューに「勝つ丼」などと書いてあれば、つい頼みたくなるのが人の性(さが)。10年前のフェブラリーSに出走するソロルの応援に行った日も、ソロルの会員誌と一緒に東京競馬場内「梅屋」でかつ丼を食べた。ちなみにこの年のフェブラリーSを勝ったのはコパリッキーでソロルは12着。かつ丼効果は残念ながらなかった。今にして思えば、単に私がかつ丼を食べたかっただけかもしれない。

競馬には親子丼も登場する。同一馬主や同一調教師の馬がワンツーフィニッシュを決めれば「親子丼」が成立。JRA公式サイトでも公式な競馬用語として紹介されている。だいたいのケースにおいて、人気薄の方が上位に来ることが多いような気がするのは気のせいではあるまい。「2頭出しは人気薄を狙え」の格言は長い歴史に基づいている。

では、競馬に「天丼」は登場しないのか? そんなことを考えつつ、築地「黒川」の暖簾をくぐった。目当てはこの時季ならではの牡蠣の天ぷらが載った天丼だ。

天丼というのはあくまで「丼」であるから、その上に載せる天麩羅の揚げ方も通常の天麩羅とは若干異なる。素材の味を生かすなら衣は薄くしなければならないが、濃いめのタレにくぐらせてご飯の上に載せる以上、タレが乗りやすいよう衣は気持ち厚めに。そのタレは天つゆとは違って、色も味も遙かに濃い。しかもしっかり温めておかないと、衣がタレを吸ってしまい、真っ黒のベシャっとした天麩羅になってしまう。適温のタレは衣にほんのりタレが染み込む程度で、ほどよいサクサク感が残される。この加減が難しい。

だが、こちら「黒川」の天丼はタレをくぐらせるのではなく、丼に盛ってからふりかけている。そのタレの味も比較的薄く、タネにタレを染み込ませるために必要な丼の蓋もない。

これは好き嫌いの分かれるところであろう。タレにどっぷり潜らせたら、外はサクっとしていながら、中はジュワっと旨いこの牡蠣の味も全く違ってしまうだろうし、逆に何年も継ぎ足されたタレの旨味が天丼の味をより深くしているという意見にも賛同できる。タレによって得るものもあれば、失うものもある。難しいところだ。結局は、食べてみて旨いと感じりゃそれでいいじゃん、としか言いようがない。

さて本題である。天丼をアルファベットで書くと「Tendon」だが、実はこれが英語では「屈腱」を意味する単語となる。よって競馬の世界で「Tendon injury」とあれば腱断裂とか腱損傷とか屈腱炎などの意味。決して「傷んだ天丼」という意味ではないし、「Tendon」だけで屈腱炎を意味することもある。

根岸S直前に屈腱炎が判明したドライスタウトが明日のフェブラリーSに出ていれば人気を集めたはず。さらに前売り1番人気のオメガギネスも除外になっていた可能性が高い。そういう意味ではテンドンは、カツドンやオヤコドンより深く競馬にコミットしていることになる。さあ、明日はフェブラリーS。あの馬の勝利を期して、久々にかつ丼でゲン担ぎをしてみようか。

 

***** 2024/2/17 ******