馬と桜

東京ドームに出かけたついでに飯田橋まで歩いてみた。訪れてみたいうどん屋さんがある。その名も「東京サンフラワー」。コロナ禍の2020年11月にオープンしたばかりの比較的新しいお店だ。

店内はカウンターのみで基本は立ち食い。アクリル板はコロナ禍の名残であろう。14時にもかかわらず満席の人気ぶりである。しょうゆうどん(温)と鶏天・竹輪天のセットを注文。5分ほど待って出ていた一杯は、ぷんと小麦の甘い香りが漂う柔らかくもコシの強いうどんであった。たしかにシンプルに醤油で食べるのが美味い。「しょうゆうどん」がメニュー筆頭なのも頷ける。

聞けば本郷3丁目「トウキョウライトブルー・ホンゴウスリー」の系列店らしい。ということは、あの「こくわがた」のDNAを引き継ぐうどんである。なるほど美味いわけだ。今思えば、店の看板にはクワガタが描かれていた。

腹ごなしに早稲田通りを南に向かって歩く。坂を上って、下ったところが靖国神社。ついでに花見も済ませておこう。

実は、靖国神社の桜は競馬と深い結びつきを持っている。

日本で最初に競馬が開催されたのが横浜・根岸であることは誰もが知るところだが、それはあくまでも居留外国人の手によって行われていた競馬に過ぎない。日本人の手によって開催された競馬という意味では、この靖国神社で行われた「招魂社競馬」がその嚆矢となる。

参道の両脇に柵を巡らし、その端を結ぶ楕円形の一周900mの競馬場が作られたその時に、元勲・木戸孝允の命によりコースの外周をぐるりと取り囲むようにソメイヨシノの木が植えられた。開催は春と秋の例大祭に合わせた年二回。春競馬は満開の桜の下で行われていたという。

間もなく競馬場は姿を消してしまい、今ではその痕跡さえも伺い知ることができないが、唯一桜の並木だけが境内に残された。靖国神社を訪れる花見客は、実は競馬場の名残を楽しんでいるのである。

当時の競馬場は花見会やサーカスなども行われる総合アミューズメント施設であった。靖国神社に続いて設営された上野・不忍池競馬場にも、やはり同じようにソメイヨシノが植えられている。東京でも一、二を争う桜の名所が、実は競馬場の名残だったというのはなかなか興味深い。

そして現在においても競馬場や馬事公苑、あるいは静内や浦河の桜並木など、馬のいるところには必ずと言っていいほど桜がある。花見云々はさておくとしても、これは日本人の美的感覚の為せる業ではあるまいか。それくらい馬のいる風景には桜が似合う。その最たるものが今週末の桜花賞阪神の桜は咲いているだろうか。

 

***** 2024/4/4 *****