【冬に美味しい⑨】牡蠣

スパゲティーの話が続く。

仕事で人形町を訪れるのことが決まったその時点で、今日の昼メシはタラコスパティーにしようと決めていた。人形町にはいわゆるハシヤ系の「スパゲティー 心」が暖簾を掲げている。たっぷりタラコと太麺が木製の器に盛られたあのビジュアルが一度頭に浮かんだら、それを消し去ることなどできるはずかない。

仕事は首尾よく完了。意気揚々と店に向かうと、13時半を過ぎているというのに店外に4人が入店待ちの列を為していた。しかし、あの濃厚で旨味たっぷりのタラコウニが食べられると思えば、ちょっと並ぶくらいどうってこともない。

そのときである。列に並んだ私の視界にこんなものが飛び込んできた。

はっきり言って牡蠣は大好物である。ために牡蠣がメニューにあれば牡蠣を頼むのが鉄則。しかもこちらの牡蠣は旨い。大ぶりの牡蠣がゴロゴロと載ったスパゲティの絵ヅラを想像したら、もはや我慢できなくなってきた。

その一方で口の方は完全にタラコになっていることも事実。初志貫徹は馬券の鉄則である。タラコか牡蠣か。お店のお姉さんがオーダーを取りに近づいてきた。決断の時が迫る。

「牡蠣とほうれん草のスパゲティー。大盛でね」

口を突いて出たのは牡蠣だった。コスタノヴァを買うつもりで家を出たのに、いざ競馬場に到着したらガイアフォースに本命が変わっていたフェブラリーSの私の馬券にも似る。昔から初志貫徹が苦手。それがために馬券で泣いたことは数え切れぬ。

とはいえ牡蠣が好きなのは本当だ。とりわけ殻の付いたままの生の牡蠣に、さっとレモンを絞っただけのシンプルな食べ方が最高。凱旋門賞のためにパリを訪れれば、名物の生ガキを食べねば気が済まない。「危ないからヤメとけ」と必死に止める同行者を横目に、10月のパリに来て牡蠣を食わずに帰れるか!とばかりに意地になってツルツルと食べ続けるのである。幸いなことに「大当たり!」とか「ホテルの部屋で悶絶!」とか「入院、帰国延期」などという目に遭ったことは   今のところ   ない。

牡蠣とほうれん草のパスタが運ばれてきた。

ぷっくり膨らんだ大ぶりの牡蠣が5つ。なんと壮観な眺めであろうか。ひとつ取って口に運んでみる。弾力のある身をぎゅっと噛み締めると、海の香りと濃厚な旨味が口いっぱいに広がった。

その牡蠣のエキスをたっぷり纏ったスパゲティの美味いこと。正直、大盛ではまったく足りなかった。牡蠣を選んで大成功。初志貫徹もクソもない。馬券なんて外れりゃ良いんだ。それでも俺は牡蠣を食う。

なんて井之頭五郎みたいなセリフを呟きたくなるほど旨かったが、タラコを積み残したことも事実。近いうちに再訪せねばなるまい。   と誓ったは良いが、そしたらまた牡蠣を食べることになりかねない。どうすりゃ良いのか。

馬券の軸候補が2頭いれば両方買うという手もある。つまりフォーメーション馬券。これに倣って、次回はどちらも食べることにしよう。どうせ「大盛でも足りない」のである。名付けて「フォーメーションスパゲティ」。よもや食べきれぬことはあるまいが、お店の人の反応と、この牡蠣の生産地でもある大船渡の山火事が心配だ。

 

***** 2025/2/27 *****