夏の桜

アイビスサマーダッシュに出走するモズメイメイは、昨年の同レースの優勝馬。勝てばカノヤザクラベルカントに続く3頭目の連覇となる。カノヤザクラといえば2008年、09年と2年連続でサマースプリントチャンピオンに輝いた名牝。09年のスプリンターズSでも8番人気ながら3着と頑張った。

2009年 アイビスSD カノヤザクラ 小牧太

彼女の能力の片鱗は、新馬を勝ち上がって臨んだデビュー2戦目のかえで賞に垣間見ることができる。鞍上の安藤勝己騎手は、スタートから行きたがるカノヤザクラをなだめ通して進んだが、鞍上の制止を振り切るようにして突っ走って1着ゴール。しかしその勝ち時計は、なんと1分20秒8のレコードタイムだった。

かえで賞の舞台は京都の内回り芝1400m。従来の2歳レコードは1995年にイブキパーシヴが樹立した1分21秒4だった。それを、さして追われることもなく0秒6も短縮してみせたのである。

サクラバクシンオー産駒の例に漏れず、距離に限界があるであろうことは誰もが感じていたはずだが、それでもこのレースぶりなら、桜花賞でもスピードで押し切れるかもしれない。なんと言っても「桜」を名前に戴く彼女である。勇躍、ダイワスカーレットウオッカの待つ仁川の舞台に向かったが、結果は9着と大敗。彼女が生涯でマイル以上のレースに出走したのは、後にも先にもこの一回きり。以後、彼女は一貫してスプリンターの道を歩み続ける。

そんな彼女がもっとも輝いた舞台が、二度の優勝を果たしたアイビスサマーダッシュだったことは間違いあるまい。寒い季節は冬毛が伸びて調子を維持できないのに、暑くなるにつれどんどん調子を上げてくる典型的な夏女。しかもその馬体は500キロを超え、スプリンターであるのにスタートも決して速い方ではない。コーナーで置かれることのない新潟1000mはベストのコース。まさにアイビスサマーダッシュは彼女のために用意された舞台だった。2連覇に留まらず、3連覇を確実視する声があったのも無理はない。

だが、舞台は突然の暗転を迎える。3連覇をかけて臨んだ2010年のレースでは、ゴール目前で左第1指関節脱臼を発症。10着で入線するも、診断は予後不良だった。勝てば我が国初の牝馬による同一平地重賞3連覇の偉業達成だったが、そんなことより痛感させられるのは、毎度のことながら競馬の非情である。せめてもの救いは、そこが彼女がもっとも輝いた舞台であったということくらい。スタートから横一列になって疾風の如く迫り来る馬群を見たその時、きっと今年も彼女が輝いたあの夏を思い出すに違いない。

 

***** 2025/8/1 *****