ザグレブ産駒のコスモと言えば

阪神JFを勝ったアスコリピチェーノのお父さんは2001年生まれのダイワメジャー。19歳で種付けした産駒ということになる。あさっての朝日FSで人気を集めるエコロヴァルツのお父さんブラックタイドダイワメジャーと同い年。「晩年の傑作」が2週続けて誕生するかもしれない。

それにしても2001年生まれのサラブレッドは実に層が厚かった。ダービーを2分23秒3の大レコードで制したキングカメハメハがその筆頭格。朝日FSにはその血を受け継ぐ馬が6頭も出走する。

ダイワメジャーハーツクライも日本を代表する種牡馬となり、次々とGⅠ馬を輩出している。他にもこの世代の古馬GⅠ優勝馬を思いつくまま挙げてみれば、アジュディミツオー、カンパニー、コスモバルクスイープトウショウスズカマンボダンスインザムードデルタブルースハットトリックメイショウボーラー、と列挙に暇がない。

そんな粒ぞろいの2001年生まれ世代の2歳牡馬チャンピオンを、みなさんは覚えているだろうか。ヒントはザグレブ産駒の「コスモ」の馬です。

多くの方が「コスモバルク」を思い浮かべるかもしれない、しかし正解はコスモサンビーム。2003年朝日杯FS、逃げ込みを図る1番人気メイショウボーラーをゴール寸前で差し切ると、バルジュー騎手の右手が高々と上がった。

しかし、期待された3歳春シーズンは皐月賞が4着。NHKマイルCは2着と好走したものの、キングカメハメハからは5馬身離された。ダービーはさすがに距離が長く大敗。しかもその直後に左前脚の第一指節種子骨骨折が判明する。当初の報道では「再起不能」という見出しが躍るほどの重症だった。それでも陣営は現役続行を決断。1年2か月の休養を経て復帰した関屋記念では上がり33秒1で差を詰めて1分33秒0だから凄い。5着に敗れたとはいえGⅠ馬の底力は示した。

その後、京成杯AH(10着)、富士S(9着)とマイル戦を続けて使われたあと、連闘で挑んだスワンSを快勝し、見事に復活を果たす。再起さえ危ぶまれた骨折から立ち直った愛馬の頑張りに、佐々木晶調教師は目を潤ませながらインタビューに応じた。「走ってること自体がすごいことなんです」。その言葉からは関係者の努力と苦労のほどが伺い知れる。

連闘後ということもありマイルCSは回避。目標は翌春の高松宮記念に据えられる。その前哨戦に選ばれたのが阪急杯だった。

馬群の最後方で4コーナーを回ったコスモサンビームは、みるみる速度を落として直線で競走を中止した。脚元に異常は見られない。鼻出血だろうか? 私はそう思った。だが、結果は急性心不全。復活劇の第二章で、舞台は突然の暗転を迎えてしまったのである。調教師をはじめ関係者の気持ちを思うとやるせない。競馬の神様は稀にひどいことをする。

朝日杯の時点でコスモサンビームの戦績は6戦3勝。その3勝はいずれも武豊騎手の手綱によってもたらされている。だが朝日杯の武豊騎手にはグレートジャーニーの先約があった。それで仕方なくバルジューに手綱を譲ったという経緯がある。

競馬にはよくあること。とはいえ、話の転がり方次第では武豊騎手はもっと早く朝日杯を勝って、JRAのGⅠ完全制覇を達成していたかもしれない。あれから20年。コスモサンビームに思いを馳せつつ、武豊騎手のエコロヴァルツにも注目したい。

 

 

***** 2023/12/15 *****