ラストライドを見届けろ

JRA騎手の引退は免許更新月の2月であることが少なくない。福永祐一が引退したのも、今年の2月だった。しかし今年は珍しいことに秋から暮れにかけて騎手の引退が相次いでいる。10月に山田敬士、そして11月に熊沢重文が引退を発表すると、12月に入ってからも松田大作、平沢健治と引退の報が止まらない。そして今日、調教師試験に合格した田中勝春と来年から調教助手として新たな道を歩む柴山雄一が揃って鞭を置いた。馬も人も引退ばかり。こんな年の瀬は記憶にない。

勝春騎手は今日の中山で6鞍に騎乗。いきなり1レースを勝ち、返す刀で2レースも勝ってみせたから凄い。スタンドからは「まだ辞めるな!」とヤジも飛んだ。勝春騎手も「もうちょっと早く乗せてくれたら」と冗談とも本気とも取れないコメントをして周囲を笑わせたらしい。

引退式の様子

のちの引退セレモニーで本人が語ったところによれば、昨夜は19時頃に就寝。しかし24時頃に目が覚めてしまい、そこからしばらく寝付けなかったそうだ。今日は寝不足で朝から頭がボーっとしていたらしい。それでも1、2レースを連勝するのだから凄いのだが、本人は「馬は偉いですね~」と言ってまた周囲を笑わせた。勝春騎手の周りはいつも笑顔が溢れている。

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驚いたのは、メインのホープフルS終了後もほとんどのお客さんが競馬場に残っていたことだ。今日の最終レースは2023ファイナルS。つまり今年のJRAの最終レースでもあるから、ちゃんと見届けたいというファンもいたに違いない。それでも場内の大半は勝春騎手のラストライドを見届けるために残っていたはず。それは返し馬での声援を聞けば分かる。いつもよりゆっくりと、馬上から眺める景色を焼き付けるようにゴール前まで歩みを進めたのち、やおら反転して1コーナー方向に駆け出すと、スタンドから大きな拍手が沸き起こった。

ラストライドは14着

勝春騎手が跨るブランデーロックは6番人気。最後方に下げて末脚に賭けるが、手応えはあまり良くはなさそうだ。いつもなら途中でハミを噛むはずなのに、今日はまったく噛もうとしないので、思わずレース途中から笑ってしまっていたという。ほんとに勝春騎手は笑顔が絶えませんな。それでも直線での追いっぷりは迫力十分。ファンも満足であろう。私もしっかりこの目に焼き付けた。

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ジョッキー最終日の成績は6鞍の騎乗で①着、①着、③着、④着、⑯着、⑭着。2勝を上積みしてのJRA通算1812勝は誇るべき立派な数字だ。そのうちの1勝が筆者の某クラブ出資馬が挙げた勝利であることを私個人は誇りに思う。しかも私にとっては初勝利だった。ビゼンニシキの産駒―――と書いても若いファンの方にはピンと来ないに違いない。なにせ30年も前の話である。私も勝春騎手もそれだけトシを取った。厩舎開業の暁には、勝春厩舎に入厩する馬に出資してみようか。今度は初重賞をもたらしてくれるかもしれない。来年からは52歳の新人の挑戦を見届けることにしよう。

 

 

***** 2023/12/28 *****