ダシの街

先日の大阪訪問では船場界隈に宿を取った。

昆布と鯖のダシだけが味を決める「船場汁」の由来にもなっている地名である。「だし」を謳う飲食店の看板も少なくない。街を南北に貫く丼池筋を歩いていたらダシの自販機まであった。

そんな丼池筋に暖簾を掲げるうどん屋さんに入る。創業は明治26年の老舗。いかにも町のうどん屋然としたこの「うさみ亭マツバヤ」こそ、きつねうどん発祥のお店なのだという。それは食べておきたい。

運ばれてきた一杯は「ザ・きつねうどん」と言うべきビジュアルだった。ダシは関西の割には色味が濃い。しかしこれは醤油の色ではなくダシの色。たしかにダシの風味は強い。

伝統的な大阪うどんの倣いに従い、麺はダシを活かすことに徹している。讃岐のような主張がいっさい感じられない。手打ちではないが、手もみした後に寝かせてモチモチ感じを出しているそうだ。眼目のお揚げは丼の蓋ほどの大きさ。京都の錦市場から仕入れたものをいったん油抜きし、甘めのダシで煮たあと、昆布を敷いてさらに2~3日寝かせているという。その味は濃くも感じるが、うどんのダシも濃いめなのでこれでちょうど良い。

想像した通りの味。驚きもなかった。とはいえ「普通」を守り続けることの難しさも知っている。その努力も味に含まれているような気がしてならない。

丼池筋を北上すると右側にまた一風変わったうどん屋さんが暖簾を掲げている。いや実際には「暖簾」というモノはない。いやそれどころか看板すらない。その名も「Udon Kyutaro」。店名の由来は「オバケのQ太郎」ではなく、町名の久太郎町にちなむ。ともあれこの外観で営業中の大人気うどん屋であると分かる人は多くなかろう。ただし、時間帯によっては行列が出来るからそれを目印にすればよい。

あつかけに炙り豚肉をトッピング。豚肉の甘い脂が染み出したダシの美味いこと。こちらでは麺の主張も強い。でもダシも負けていない。そのせめぎ合いも楽しい。終わってみれば最後の一滴までダシを飲み干している。さすが大阪ダシ文化の中心地。ここまでシンプルでありながら完成された一杯はほかにあるまい。

 

***** 2024/4/15 *****