明日の産経賞オールカマーにレガレイラが出走する。出走馬12頭中、唯一のGⅠホース。中山のGⅠを2つも制しているにも関わらず、前日発売オッズは2番人気に留まった。1番人気は重賞未勝利の半兄ドゥラドーレス。GⅠ馬の看板をもってしても、前走大敗の印象は隠し切れないということか。
牝馬は他にフェアエールングとホーエリートも出走する。人気はホーエリートだが、筆者は重賞で4戦連続して馬券に絡んでいるフェアエールングに期待したい。いずれにせよ牝馬2頭のワンツーフィニッシュという結果になれば、2021年のウインマリリン&ウインキートス以来の出来事。オールカマー史上では4回目となる。ドゥラドーレスとレガレイラの兄妹ワンツーの期待が高まっているようだが、馬券的にはむしろこちらのワンツーが狙い目ではあるまいか。
1995年のオールカマーで人気を集めたのはヒシアマゾンだった。その年の3月に米GⅠサンタアナハンデに出走すべく渡米したが、慣れぬ環境に馬体を減らし、水を飲むことさえしない。挙句の果てに、雨で路盤がむき出しになった馬場での調教が祟って左前脚を捻挫。レースを目前にしながら無念の帰国となった。その後7月の高松宮杯に出走するも、まるで精彩を欠いた走りで5着。牝馬は一度体調を崩すと立て直すのが難しい。一時は引退説も流れた。それでもファンは、オールカマーに挑むヒシアマゾンを1番人気に押し上げたのである。
実はこの年のオールカマーは台風12号のために平日の月曜日に行われた。にも関わらず46,888人もの観衆が中山につめかけたのは、女王復活の瞬間をひと目見たいと願うファンが多かったからにほかならない。前日の雨が残って馬場は稍重。アイビーシチーが先導するスローペースに業を煮やしたヒシアマゾンは、3コーナー付近で早くも先頭に立ってしまう。どよめくスタンドの大観衆。ヒシアマゾンが先頭のまま馬群が直線に向くと、満を持してスパートしたアイリッシュダンスが猛然と襲い掛かってきた。
その差は2馬身、1馬身、半馬身。しかしそこからがヒシアマゾンの真骨頂だ。マチカネアレグロを競り落としたニュージーランドトロフィー4歳Sでも、チョウカイキャロルとのマッチレースを制したエリザベス女王杯でも、馬体を併せての競り合いで彼女は負けたことがない。それが女王の女王たる所以。ラスト1000mのラップタイムは、計ったように11.8-11.8-11.8-11.8-11.4である。最後の1ハロンが少しだけ速いのはアイリッシュダンスが競りかけた分であろう。この日もクビ以上にその差を詰められることはなかった。湧き上がる大歓声。女王復活の瞬間である。
ヒシアマゾンが名牝であることは論を待たないが、アイリッシュダンスにしても牡馬相手にふたつの重賞を勝っただけでなく、ハーツクライという不世出の名馬の母でもある。そういう意味において、この年のオールカマーは名勝負だった。
あれから30年を経た今年のオールカマーも「牝馬のオールカマー」となるだろうか。とくに宝塚記念で不可解な大敗を喫したレガレイラは、あのときのヒシアマゾンが重なって見える。その血統表をあらためて見れば、2代父の母はアイリッシュダンスではないか。グランプリホースとしての貫禄を示すと同時に。曾祖母のリベンジも果たしたいところだ。
***** 2025/9/20 *****