【冬に美味しい⑦】あんかけうどん

京都出身の人が嘆いていた。「こんな寒いのに東京には“あんかけうどん”を出す店がない!」と。嘆きというより怒りが込もる口調だったから、あながち冗談でもなさそうだ。

京都人はあんかけ料理が大好き。味付けした汁に葛粉などを少量加え、とろみをつけたあんをかける。この季節はとくにあんかけ料理が美味しい。かぶらにあんをかけ、百合根饅頭にもあんをかける。

あんかけうどんはその最たるものであろう。これを京都では「たぬき」と呼ぶ。理由はドロンと化けるから。真冬の都大路では、大阪のタヌキとも東京の狸とも全く違う別の「たぬき」が闊歩しているわけだ。

ウインズ渋谷のほど近く、澁谷警察署の裏手に暖簾を掲げる「とろとろ房」は、昼飲みができる居酒屋として有名だが、実は東京では珍しいあんかけうどんの専門店。昼飲みも捨てがたいが、今日は独りしみじみあんかけを味わいたい。店の前に立つと、たぬきの代わりにリバティアイランドとゴールドシップが出迎えてくれた。

メニュー短冊と競馬ポスターが所狭しと貼ってある店内の雰囲気は、どことなく関西の居酒屋を思わせる。あんかけを中心にうどんメニューも豊富だ。普段はチキンカツカレーうどんを頼む私も、今日のところは「豚肉と生姜のあんかけうどん」をオーダー。この寒さでは背に腹は代えられない。

自家製だという麺はコシやノド越しよりもツルモチ食感を楽しみたい。ダシは優しい関西風。それがあんを纏ってさらに優しさを増しているが、そこに生姜が加わることで全体がキリっと締まっている。そしてもちろん熱い。食べ始めから食べ終わりまでずっと熱い。ツユが美味しいので最後まで飲み干すのに苦労するほど。食べ終わって店を出ても、まだ身体がポカポカしていた。これはおそらく生姜の効能であろう。

近隣のお茶屋に夜食を運ぶ京都・祇園の習慣が、あんかけうどんを生んだという説があるらしい。冬の京都は底冷え。それでもあんかけならうどんが冷めにくい。2月の京都競馬観戦は寒さとの闘いでもある。冬の淀にあんかけうどんがあればファンも喜ぶに違いない。「つくもうどんExpress」さんあたりがひと肌脱いでくれないだろうか。そもそも関西に広く展開する「つくもうどん」では、「けいらんうどん」というあんかけうどんが看板メニューなのである。

 

***** 2025/2/24 *****