「弥生賞」の声を聴いて本格的なクラシックシーズンの到来を感じる方は少なくあるまい。もちろん私もそのひとり。かつての私はここを競馬シーズンの開幕と捉え、ならば1番人気を買ってお祝いするのが筋であろうと、ドカンと大勝負して泣いてばかりいた。サクラホクトオー、ヤマニンミラクル、ナムラコクオー、そしてエアガッツ。弥生賞で人気を裏切って大敗した馬たちの敗因の一部は、実は私の馬券にあったりする。
そんな弥生賞のレース名は5年前に変更された。それが「弥生賞ディープインパクト記念」。いや待て。そもそもこのレースには報知新聞社から社杯が提供されているから、正式名称は「報知杯弥生賞ディープインパクト記念」となる。あ、いやいや、それを言うなら「皐月賞トライアル」の副題も付けなければ画竜点睛を欠くから、「皐月賞トライアル報知杯弥生賞ディープインパクト記念」が正しい。いやはや、なんという長さか。
重賞レースの正式名称としてディープインパクトの名前を後世に残すことは意義のあることだ。欧米では歴代名馬の名前を付けたレースは珍しくない。多くのファンもそれを願っている。なのに、JRAでは馬名を付けたレースはセントライト記念とシンザン記念の2つだけという状況が長く続いた。副題としても共同通信杯2歳Sの「トキノミノル記念」があるだけ。シンボリルドルフ、ナリタブライアン、ディープインパクト、そしてオルフェーヴル。三冠馬が誕生するたびに議論の的になってきた過去がある。
これについては「ナリタやシンボリといった冠名がついているからダメ」とか「引退後も種牡馬として供用されているうちはダメ」といった理由がまことしやかに語られてきた。だが、JRAはそのような内規の存在そのものを否定している。ところが弥生賞の名称変更はディープインパクトの死亡直後に発表された。ほら、やっぱり内規があるんだろう。そう思った人は少なくあるまい。内規とその明文化はそもそも別問題だ。
それにしても、このレース名は長い。「皐月賞トライアル」の部分を削っても17文字。これに新聞各社は今も頭を悩ませている。従来通りの「弥生賞」だったり、あるいは「ディープ記念」としてみたり。いずれにせよ限りある紙面にレース名だけで17文字も使うわけにいかない。それはJRAとて同じこと。馬券の券面に印字されるレース名は「報知弥生ディープ記念」。何のことかさっぱり分からない。「報知杯」の3文字は死守しなければならないスポーツ報知に至っては、ディープインパクトを「DI」と略す荒業に出た。
それまで長名レースとしてその名を轟かせていたのは「アイルランドトロフィー府中牝馬ステークス」。その馬券には「アイルランド府中牝馬」と印字されていた。察するに「券面に表示できるレース名は10文字まで」というシステム上の縛りがあるのかもしれない。しかしアイランドトロフィー府中牝馬Sは今年から「アイルランドトロフィー」に改称されるから、券面は「アイルランドT」で決まりであろう。「報知弥生ディープ記念」だけが取り残された格好だ。
邪推ではあるが、「報知杯」も、「弥生賞」さえも、いずれは無くすことも視野に入れているのではないか。報知新聞社からの社杯提供だっていつまで続くか分からない。そのタイミングで「ディープインパクト記念」としてしまえばいい。それでも11文字では馬券に収まらない。ならば、いっそのこと「記念」をやめて、「ディープインパクト賞」とか「ディープインパクト杯」とか「ディープインパクトS」というレース名にしてしまおうか。いや、その頃には11文字の印字対応が施されているはず。いやいや、そもそも紙の馬券が廃止になっている可能性だって捨てきれない。
***** 2025/3/5 *****